COLUMN

革を愛したレジェンドたち
VOL.1 スティーブ・マックイーン

天然皮革の魅力に取りつかれた世界の著名人たちを毎回紹介する連載企画。
彼らが仕事やプライベートで身に着けた逸品にまつわる知る人ぞ知るエピソード集。


©︎Getty Images

A-2ジャケットからライダースまで、
オンオフ問わず愛した名優

革ジャンが最も登場する映画といえば、第二次世界大戦を舞台とした戦争映画と言い切っても過言ではないかもしれない。実際、当時の軍服の多くに使われていたからだ。だから、ディテールが気になるファンは、物語そっちのけでフライトジャケット(飛行服)が気になって仕方がない。

とくにこの時代の米航空戦記ものは、フライトジャケットを着るパイロットがたくさん登場する。戦闘機の空調が十分ではなく機内も寒かったため、天然皮革でつくられた革ジャンこそが最も信頼できる防寒素材であったからだ。

A-2(陸軍航空隊のユニフォーム)はホースハイド、G-1(海軍飛行隊のユニフォーム)はゴートスキン、B-3(極寒用のフライトジャケット)ならシープスキン。

やがてコットン、さらにはナイロンなどの化学繊維が開発され革は代替えされていくが、やはりパイロットにとって当時のフライトジャケットは特別な存在であったようで、A-2、G-1ともに、米パイロットたちの支持により’80年代に復活を果たしている。とくにA-2への想いは強く、憶測を交えていえば、ヴィンテージが良いコンディションで多く残っているのは、退役軍人たちが自身の誇りであるA-2を大事に保管していたからだ。


©︎Getty Images

A-2を着用した名優と言えば、旧くは『頭上の敵機』のグレゴリー・ペック、『フライング・タイガー』のジョン・ウェイン、あるいは『ライトスタッフ』でチャック・イェーガーを演じたサム・シェパードも思い出される。

A-2は、命を賭して空を舞うパイロットにこそ良く似合う。だが、現代にも通じるカッコいいA-2の着こなしは誰かと聞かれれば、1963年の名作『大脱走』におけるスティーブ・マックイーンで異論はないだろう。


陸軍航空隊のサマーフライトジャケットA-2


陸軍航空隊 極寒地用のフライトジャケットB-3


海軍飛行隊のフライトジャケットG-1

他の名優たちのA-2の着こなしがあくまで飛行服の装いであったのに対し、『大脱走』のマックイーンは、米空軍将校がドイツ軍に捕まった捕虜という設定。A-2に’60年代ラグランスリーヴのスウェットを合わせ、マックイーン自身が細身にモディファイ(※1)したというカーキトラウザー(※2) 、足元のM-43サービスシューズ(※3) 、そして軍用のダッフルバッグ。捕虜だというのに、あまりにもカジュアルな着こなしだ。

彼は、プライベートでもよく革ジャンを愛用した。ときにはライダースジャケットを着てバイクに跨り、晩年はプライベート・パイロットのライセンスも手にして飛行機も操縦していた。劇中、プライベート問わず愛用したマックイーンこそ真の革ジャン愛好者であり、それまでユニフォームだった革ジャンをファッションとして嗜むという潮流をつくりだした張本人なのだ。

▼脚注

(※1)モディファイ:
ヴィンテージをベースにしながら、現代に通用するサイズやスペックに改良すること。

(※2)カーキトラウザー:
第二次世界大戦中にアメリカの将校など身分の高い人が着用していたパンツで、昨今は“チノパン”の愛称で広く親しまれている。

(※3)M-43サービスシューズ:
第二次世界大戦中のアメリカ陸軍の隊員が着用していたブーツで、映画『大脱走』でマックイーンが着用していたことで知られている。

Steve McQueen <スティーブ・マックイーン>

1930年生まれ。“キング・オブ・クール”の愛称で知られ、亡き後も全世界に多くのファンを持つ。男のダンディズムの理想形として、その佇まいやファッションの着こなしなど、今も憧れの的になっている。また、劇中、プライベートを問わず多くの革ジャンを着用している姿が目撃されている。代表作に、『荒野の七人』『大脱走』『華麗なる賭け』『栄光のル・マン』『タワーリング・インフェルノ』など多数。1980年没。