全国から野生のシカの原皮を受け入れ加工する、草加レザーのチャレンジ。

埼玉県秩父地方で害獣として捕獲されたシカの皮を加工した道具入れ。皮がそれほど大きくないことから、そのサイズを生かした加工に。革の端や穴をあえて見せるデザインに仕上げた。

100年続く皮革の産地、埼玉県草加市。昭和10年、和太鼓に使う革を製造する「日東皮革」がこちらに工場を構えたことをきっかけに、墨田区のタンナーが移転してくるようになった。東京という消費地に近く、また、豊富な地下水に恵まれていたことが理由のようだ。以来、原皮卸、タンナー、製品加工業者と、皮革製品の製造に関わるあらゆる業者や職人がここに集まり、小規模ながら高い技術をもつ産地としてその名をとどろかせてきた。

害獣とされた動物の皮を、有効活用する。

そんな草加の有志数社が集まって取り組んでいるのが、「U-TaaaN PROJECT by SOKA LEATHER(ユータ―ンプロジェクト バイ ソウカレザー)」。きっかけはいまから6年前、同じ県内の西秩父商工会から、害獣として捕獲されたシカの皮の活用について相談を受けたことだった。

北海道北見市から受け入れ、伊藤産業で鞣された、エゾシカ革。藍染を施したが「革の中の脂やタンパク質によって染料ののり具合がまったく異なる」と伊藤さん。通常、色ムラは避けられることが多いのだが「野趣あふれるムラの表情がいい」とクライアントには好評だそう。

「シカ肉は味噌漬けなどにして販売できるようになったものの、皮を何とか利活用できないかとのことでした。命をいただいている以上、すべての部位を無駄なく活用したいという気持ちに共感し、原皮から鞣し、染色加工、製品加工までのすべてを草加で請け負うことにしました。これをきっかけに、日本全国で猟師の減少やほかの原因により全国的に獣害被害が拡大していることを知り、草加の技術が社会問題の解決に役立てるのではないかと思うようになったのです」(伊藤産業・伊藤達雄さん)

大学で学んだ化学の知識を駆使してさまざまな鞣しに挑戦する、伊藤産業の伊藤達雄さん。昨年度は「革きゅん」にて篠原ともえさんとともにエゾシカ革のきもの制作を手がけた。

「草加の特徴は、原皮の調達から最終仕上げまでを同じエリア内で行えること。普段は各々がそれぞれ顧客を持ち、鞣し加工やOEM製造などを請け負っていますが、一気通貫でモノづくりを行える地域性があるので、工程に課題が生じても、それぞれ経験のある仲間内で知恵を集め、解決に導くことができます」(「LEATHER TOWN SOKA PROJECT」チーム・技術アドバイザーの鈴木功さん)

こうしたモノづくりはいつしか「草加ならカタチになる」と評判になり、各地から難しい相談が舞い込むようになった、というわけだ。

原皮卸でもある「日東皮革」に集められていた、北海道・道南のエゾシカ皮。ここで皮の内側の脂をとるなどの一次処理を行う。

その後、北海道北見市や岡山県岡山市など、各地の事業者からエゾシカやニホンジカの原皮を預かり、加工して戻すという事業を行うようになった。「普段扱っている牛や豚と勝手は異なるが、ニホンジカやエゾシカには野生動物ならではの表情がある」と伊藤さん。

「生息地によって大きさも皮の厚みも異なりますが、エゾシカは大型で皮が厚く、ニホンジカはずっと小ぶり。多彩なアプローチが可能で、これまで牛革で作られていた製品がシカ革に替わったことも。用途によって、鞣し方、染色や油の入れ方、仕上げ方を変えています」(伊藤さん)

このように加工された革は、皮革製品に仕立てられ、地域の特産品として販売される。「U-TaaaN PROJECT by SOKA LEATHER」は地域経済の活性化をも担っているのだ。

埼玉県の西秩父商工会のために製作した小銭入れとメガネケース。地域の名産品として道の駅などで販売した。

100%土に還る、“米ぬかなめし”。

モノづくりの産地として、「常に新しい鞣し方や加工方法に、積極的に取り組んできた」という草加レザーの有志たち。今年は「U-TaaaN PROJECT by SOKA LEATHER」でも新たなチャレンジを予定している。それが、薬品の代わりに米ぬかを使ってシカ皮を脱毛・鞣すというものだ。

「日東皮革」が伝統的に行っている、牛皮の「米ぬか脱毛」。一般的には化学薬品を使用して脱毛作業を行うが、こちらは米ぬかと塩を入れた水に原皮を2週間漬け込み、毛を抜けやすい状態にする。この技術をもつのは、全国でも「日東皮革」も含めた2軒だけという。

昔ながらの方法で一枚一枚、手作業で削り落としていく。

「『日東皮革』の本家は太鼓・和太鼓・神輿の製造を行っている『宮本卯之助商店』ですが、本家で長く受け継がれてきた技術を私どもが継承しました。初めに米ぬかと塩を合わせた水の中に牛の原皮を2週間漬けておきます。すると、米ぬかの中にある酵素の作用によって毛が抜けやすくなります。そこから手作業によって毛を削り落とします。皮の繊維を傷つけないためとても強靭さを保つことができるこの手法を、今後はシカ皮に応用してみようと考えています」(「日東皮革」の代表で、「LEATHER TOWN SOKA Project」チーム・代表を務める宮本宗武さん)

「U-TaaaN PROJECT by SOKA LEATHER」では、米ぬかで脱毛したシカ皮を、米ぬか油を使って鞣すという。米ぬか油による鞣しを行っているのは全国でも草加レザーだけだというが、しっとりとなめらかな手触りに仕上がる“米ぬかなめし”の特徴を生かし、よりユニークな製品づくりにチャレンジする予定だ。

「何よりも、米ぬかは土に還る自然素材なので、環境に配慮した製品づくりが求められている現代にふさわしい革づくりといえるのではないでしょうか」(宮本さん)

「LEATHER TOWN SOKA Project」のメンバー。左から技術アドバイザーの鈴木功さん、日東皮革代表の宮本宗武さん、河合産業の河合泉さん、伊藤産業代表の伊藤達雄さん。

「LEATHER TOWN SOKA Project」チームに加わる皆が若手職人だったころから、新しい技術開発や、誰も行わなかったチャレンジに取り組んできたという。そういう意味では「U-TaaaN PROJECT by SOKA LEATHER」の下地は30年も前に芽生えていたといえるだろう。現在も第一線で活躍する彼らが抱えている現在の課題は、「次世代への継承」。それぞれの事業を受け継いでもらうためには、これからのモノづくりが持続可能でやりがいがあり、社会にインパクトを与えるものである必要がある――、それが「LEATHER TOWN SOKA Project」チームの一貫した想いだ。

秩父のシカ革を使った、1点もののレザーエプロン。革の端材を余すことなく使用した、遊び心あふれるデザインが魅力的だ。

「『U-TaaaN PROJECT by SOKA LEATHER』は、これからの草加レザーのモノづくりの方向性を代弁するプロジェクトともいえます。自分たちの高い技術を応用できることに加え、社会問題の解決に貢献し、地域活性化の一役を担うことにやりがいを感じます。原皮を加工するだけでなく、各地の若い職人やデザイナー、作り手と連携して、新しいモノづくりの可能性に挑戦していきたいですね」(鈴木さん)

U-TaaaN PROJECT by SOKA LEATHER
https://soka-leather.jp/projects/u-taaan-leather/

LEATHER TOWN SOKA Project
埼玉県草加市中根 1-14-1 河合産業株式会社内
tel: 048-936-2267
https://soka-leather.jp

photography: Yasuyuki Takagi, editing & text: Ryoko Kuraishi

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