高い技術力で「栃木レザー」の魅力を最大限に生かす、タンナー発のブランド。
昔ながらの植物タンニン鞣しをピット槽で行うことで知られている栃木レザーは2022年春、自社製造の革を使ったオリジナルブランド「nogake」をスタートした。同社初となるブランド誕生の背景を、代表取締役の遅澤淳史さんに伺った。
「革本来の風合いを生かした製法により、私たちが手がける革は丈夫で表面にキズがついても目立ちにくく、使うほどに色艶が増して経年変化を楽しめます。そうした魅力をこれまでとは違う形で表現してみようと、コロナ禍の2021年秋に開発を始めました。従来の栃木レザーの革といえば、ややハードで男性的、色はブラックというイメージを持たれがちでしたので、オリジナルアイテムは特に女性に使ってもらうことを意識したデザインで、物理的な軽さと見た目の軽やかさを追求してみました」
遊び心を形にしたオリジナルレザーの開発。
オリジナルブランドのために新たに開発したのは「nogake smooth」と「nogake emboss」というふたつのオリジナルレザーだ。オイルを浸透させた「nogake smooth」はしなやかさとマットな質感が特徴で、オイルレザーならではの経年変化を楽しめる。栃木レザーの革の特徴のひとつに艶感があるが、日常使いを考えてあえて抑えめに仕上げた。「nogake emboss」は不規則なシワを寄せて表情豊かに仕上げたシボレザー。細かなシボなので長く使いこんでもキズが目立ちにくく、「革を育てる」プロセスを楽しめるという。
オリジナルブランドだから、実験的な技術にも挑戦できた。
この「nogake emboss」はエコフレンドリーを意識してラインナップに加えた素材だという。「キズやシワが多いなどの理由から市場のニーズに合わず、残念ながら流通できなかった革の表面に細かいシボを型押しし、魅力的な革商品として活用しています。植物タンニン鞣しをした革はクロム鞣しをした革よりも熱に弱いことから、熱と圧力をかけて革に型をつける工程が必要な型押し革を製造することはほとんどありませんでした。ですが、自分たちのブランドでしたら実験的なことにもトライできます。植物タンニン鞣しの革が耐えられるギリギリを追求しながら、これまでになかった顔料を使用した仕上げ方法にも挑戦し、柔らかいニュアンスのカラーをラインナップに加えています。結果的に新しい技術開発に繋がり、丁寧に仕上げた革を無駄にすることなく、遊び心を形にした商品をつくることに成功しました」
同時に、こうした商品ラインナップは栃木レザーのショーケースとしても機能している。
「自社で革製品を作ったとしても、革づくりの担い手としてよりよい素材を提案するという軸がぶれることはありません。『nogake』は栃木レザーのチャレンジや技術開発を多くの方に見ていただくためのアプローチでもあるのです。さまざまな素材、質感、色で展開する私たちの革の可能性を、オリジナルアイテムに見出していただけたらと思います」
「nogake」のデザインは栃木レザーと長くつきあいのあるデザイナーが手がけているが、そのラインナップには「大の革好き」という遅澤さんの、革へのこだわりや愛情が込められている。
「女性にも使っていただける商品をと考え、『軽さ』を意識しつつも、栃木レザーらしい風合いや上質さはしっかりと実現しています。たとえばグローサリーバッグを革で再現した『2way grocery bag』は革の厚みを薄くしすぎると型崩れしやすくなるため、中にものを入れたときに自立する程度の厚みをキープしています。軽量化を図りながらも、丈夫でへたらない。デザインと機能性のバランスを大切にしました」
女性にも使ってもらいたい革製品ということで、今後は人工的な光沢や鮮やかな発色の革製品にもトライしていきたいという「nogake」。タンナー発のオリジナルブランドならではの技術力と自由な発想で、革に秘められた魅力を広く発信していく。
photography: Midori Yamashita, editing & text: Ryoko Kuraishi