汚れは落とし、味わいを育てる。正しいお手入れで引き出す革の魅力。
使い込むほどに色や質感が変わり、「じぶん色」に育っていくのが革製品の魅力のひとつ。一方で、単なる汚れやひび割れなど、良くない変化は避けたいもの。革を美しくエイジングさせるための正しいお手入れ方法を、革のメンテナンス・リペア事業を展開する「ユニタスファーイースト」の小林龍征さんに聞いた。
汚れを優しく落としてから保護。
「古い遺跡から革袋が発見されるほど、本来、革は優れた耐久性をもつ素材です。正しくお手入れすることで、革製品の寿命は延びていきます」と小林さんは話す。
では、「正しいお手入れ」とは、一体どのようなものだろうか。小林さんによると、シボや毛穴にたまった汚れや皮脂を落としてから保護するのが、革の基本のお手入れだそう。
そこで今回は、ユニタスファーイーストが販売するレザーケアキットを使って、小林さんにお手入れの流れを実演してもらった。
「革表面の汚れだけでなく、カビ発生の原因になりやすい毛穴の内部に付着した汚れまで取り除きましょう。下準備として、ハンディ掃除機や革用ブラシを使い、革を傷つけないように革製品についたホコリを取り除いてからクリーニングを行ってください」
[STEP1]
雨ジミや日常の頑固な汚れを取り除くには、革専用のクリーナーが有効。クリーナーを手のひらサイズの柔らかいスポンジ(メラミンスポンジは不可)に染み込ませ、泡が十分に出るまでスポンジをよくもむ。
[STEP2]
汚れている部分に直接スポンジを当て、円を描くように優しくこする。強くこすると革を傷つけてしまうので注意。
[STEP3]
浮かび上がった汚れを、清潔で柔らかい白い布(色や柄のついたものは色移りの可能性があるため避ける)やティッシュペーパーで優しく拭き取り、乾燥させる。乾燥後にまだ汚れが残っていた場合は、再度STEP1~3の作業を繰り返す。
[STEP4]
汚れを落とした後は、革の保護を。革専用の保護クリームで革に必要な栄養、水分を与え、革の老化を予防する。クリームを清潔で柔らかい白い布に少量出す。
[STEP5]
革の表面が乾いていることを確認してから、優しく円を描くようにしてクリームを薄くのばし、まんべんなく塗っていく。パーツとパーツの隙間や縫い目など、汚れがたまりやすい部分にもしっかり塗布。塗り残しがないように注意。
[STEP6]
ドライヤーの冷風または自然乾燥でしっかり乾かす。内部の水分と脂質のバランスが良くなり、革製品が美しさを取り戻す。新品の革製品なら、使い始める前にクリームを塗布することで、汗や油脂が革繊維に浸透するのを防ぎ、キズや汚れを予防できる。
間違ったお手入れ方法に気を付ける。
「逆に、間違ったお手入れを続けると、かえって革に負担をかけてしまう場合があります」と小林さん。よくやりがちな誤ったお手入れのひとつが、アルコールなどで汚れを拭き取ることだと指摘する。
「アルコールは油分を取り除く働きがあるため、革に必要な油分まで奪ってしまう可能性があります。アルコールが染み込んだ布で拭くことでも表面の汚れは落ちますが、革の中に入り込んだ汚れは取ることはできません」
布などで乾拭きをしたり、汚れをメラミンスポンジなどでこすったりすることも避けた方がいいという。「乾拭きでも革の中に入り込んだ汚れは落とせません。むしろ、革表面の組織をつぶしてしまうので、汚れや皮脂がより取れにくくなります。メラミンスポンジには研磨剤が入っているため、革表面の仕上げを破壊し、革の寿命を短くしてしまう可能性があります」
革のツヤを出すには牛乳を塗るといいという誤った情報に触れることもあるけれど、これにも注意が必要だ。「牛乳に含まれるカゼインという成分は『テカリ』を生みますが、これは革本来の『ツヤ』とはまったく異なります。むしろ、革の劣化やカビ発生の原因にもなってしまいます」
手で触ることが多い財布やキーケースなどの革小物は、毎日使うため手の皮脂や汚れが付着しやすい。あえて手の脂をこすり付けてツヤを出そうとする風潮もあるが、これも正しいお手入れとは言えないそう。「革に汚れが蓄積して現れるテカリは、革本来のツヤではありません。革の汚れや皮脂が付着した状態で革を磨くことによって、革表面がフラットになり、ツヤがあるように見えているだけなのです」
適切なお手入れができていれば、革からにじみ出た油分により自然なツヤが出て質感も柔らかくなり、使う人それぞれの個性が出てくる。ぜひ、そんなエイジングを楽しみたい。
味わい深くエイジングされた革財布の一例。新品(右)は硬くマットな質感だが、約10年使用後(左)は、革が柔らかくなりツヤが出ている。色あせなどもなく、良い状態。中に入れているカードなどの形が浮き出し、個性になる。(ユニタスファーイーストの革製品ブランド「ichisanroku Japan」のアイテムのエイジング例)
汗や皮脂がつきやすい夏場は少し注意が必要だけれど、お手入れの頻度は年に2~3回程度、汚れてきたと感じた時に行えば十分だそう。革の状態に気を配り、必要な時にお手入れをするという過程を通じて、その製品に対する愛着も湧きそうだ。
「しっかりお手入れすれば、革がもつ頑丈さが保たれます。人類が革を使いだしてから何千年も経っているにもかかわらず、いまだにほかの素材よりも長持ちする素材として利用されている。それが革のいちばんの魅力だと思っています」
ユニタスファーイースト
兵庫県姫路市花田町高木108
https://uniters.co.jp/
photography: Sadaho Naito, editing & text: Akiko Wakimoto