革製品を美しく甦らせる、リペアという選択肢。
「使い込めば使い込むほどに表情が出て、新品よりも味わい深くなるのが本革の魅力です。適切なケアができていれば、10年、15年、それ以上と長く使うことができます」と話すのは、革の扱いを熟知する「ユニタスファーイースト」の高畑祐樹さん。とはいえ、大事にケアして使っていても、壊れたり、トラブルが起きたりすることも。そうした時には、リペアという選択肢があることを覚えておきたい。
リペアの奥深さに引き込まれて。
ユニタスファーイーストのリペア部門でセクションマネージャーを務める高畑さんは、入社して10年目になる革のスペシャリスト。以前は自身で革製品のデザインをしていたという。
「28歳と比較的遅い年齢で革の世界に入りました。修理を学び始めたのは、出来上がっている完成品を解体することが自身の勉強になり、デザインの幅を広げられるかなと思ったからです。でも、だんだんとリペアのおもしろさに引き込まれていきました」
ユニタスファーイーストのリペア部門の高畑祐樹さん。
さまざまな革のトラブルに対応する、リペアの事例
・持ち手交換
よく使うバッグの持ち手は傷みやすい。丁寧に型取りして新しい持ち手をつくる。
バッグの持ち手は本体の重量を支えているため、長く使っているうちに擦れてしまったり、剥げてボロボロになったり、切れてしまったりすることも。そうした時は、持ち手部分だけ新しくつくって交換することができる。
壊れた持ち手を取り外して解体し、型取りして同じ形の持ち手をつくる。新しい持ち手はバッグ本体の色に合わせて調合した色の塗料で塗り直すため、違和感なくなじむ。革の断面であるコバの部分も丁寧に着色する。
・破れ補修
小さな穴程度の破れの場合は接着剤で補修する。乾くと穴は目立たない。
何かにひっかけて、革製品に穴が開いてしまうことがある。乾燥や摩擦、汗や油脂によるダメージで革が劣化し、それによるひび割れや亀裂が真皮に到達することが原因となって破れることもある。
革製品に穴が開いてしまった場合、穴の大きさや状態により修繕の方法が変わる。小さな穴であれば、穴の断面を皮革用の接着剤で貼り合わせるだけで解決することも。大きな穴の場合は、破れた箇所に裏から新しい革を貼るなど、破れ方によって職人が最適な方法で補修。破れた部分の強度を上げて、再び日常使いできるように。
・色補修
革財布に塗料を吹き付ける。熟練の職人の経験値によって調色し新品時のきれいな状態を再現。
色落ちや変色も、革製品によくあるトラブル。ぬれた状態の革に摩擦が加わると、染料が溶け出し、色落ちや色移りが起きる。雨や汗などでぬれてしまった場合は、早めに乾いた布で水気を拭き取るのが鉄則。また、日光に長時間さらされると、革の染料が紫外線によって分解され、変色や退色が起こりやすい。こうしたトラブルが起きてしまった場合は、色落ちした部分のみに色を重ねる「補色」、または全体的に塗り直す「染め直し」が有効だ。
・ファスナー交換
新しいファスナーを本体に縫い付ける。引き手は再利用できることも。
バッグや財布といった革小物のファスナー部分は、ファスナーの開け閉めを日々繰り返すうちに故障も起こりやすい。かみ合わせがずれたり、ファスナーテープの部分が切れたりすることも。そうした場合、壊れたファスナーのみ新しいものに交換することで、再び新品のようにスムーズに開閉できるようになる。
・裏地交換
バッグの裏地は合皮や布地が多く、本体の革に比べて耐久性が劣るため、交換が必要だ。
本革のバッグでも、裏地には布や合皮が使われていることが多い。布はほつれや破れ、合皮は加水分解による劣化やベタつきが起き、耐久性のある革の部分よりも先に傷みがち。汚れや傷みの程度が大きければ、張り替えを検討しよう。
バッグの内装は2通りに分けられる。ひとつは裏地が袋状になっているタイプ、そしてもうひとつがバッグの裏地が本体の外周に縫い込まれている張り込みタイプだ。前者は比較的修理がしやすいが、張り込みタイプはバッグ本体を解体する工程が必要になる。
「元の状態に戻るとは思わなかった、こんなにきれいになるなんてとお客さんに喜んでもらえるのが、この仕事をやっていてよかったなと思う瞬間です」と高畑さん。
愛着のある大切な革製品の傷や色あせ、汚れ、破損などあらゆるトラブルには、革を知り尽くしたプロの職人に一度相談してみよう。革が再生できる長寿命な素材であることを再認識できるとともに、美しく生まれ変わった革製品と新たな時を刻んでいけるだろう。
ユニタスファーイースト
兵庫県姫路市花田町高木108
https://uniters.co.jp/
photography: Sadaho Naito, editing & text: Akiko Wakimoto