命の手触りを革に託して。松山ケンイチが紡ぐ未来。

俳優として歩みながら、暮らしの根にある“自然との循環”を見つめ続けている松山ケンイチさん。2022年に立ち上げたアップサイクルプロジェクト「momiji(モミジ)」は、生かしきれていない獣皮を新たな価値へと昇華させる挑戦から始まった。革の奥に眠る命の証をどう生かすのか。やがて伝統工芸との協業へと広がるその活動の原点には、自然と向き合いながら見つけた“未来への循環”への静かなる決意がある。

自然の中での暮らしが繋いだ、感性と出会い。

俳優として芸能界の第一線に立ち続ける一方で、農作業で土に触れ、山へ入り、季節の移ろいを身体で受け取る——そんな生活を大切にしている松山ケンイチさん。自然に寄り添う日常生活は、彼の思考の芯をつくり、表現者としての姿勢にも静かに連なっている。

「害獣駆除の様子を見て、命ある動物が肉となるまでの背景に触れた体験が、すべての始まりでした。スーパーの肉では想像できなかった“命の物語”が一気に押し寄せてきたんですよね。僕は生き物の命をいただいているんだということを強く実感したんです。食べ物が食卓に上るまでに、これほどのストーリーがあるのかと強い衝撃を受けました」

松山さんが着用する帽子は、渋沢栄一が創業した老舗製帽会社による日本初の帽子ブランド「Tokio Hat」とmomijiのコラボによって生み出された製品。鹿革に京都の伝統工芸である金彩が施されている。レザージャケットもmomijiの製品で、一部に金彩が施されている。

野生動物の個体数調整のために行われる害獣駆除。農作物への食害防止や、崩れてしまった生態系のバランスを修復するために、なくてはならない営みだ。その中で駆除された鹿や猪の肉は食用に回せても、皮は使われぬまま廃棄されていく現実がある。解体場で、行き場を失った皮は産業廃棄物として処理されていく。そんな情景を目の当たりにした時、「あまりにももったいない」という率直な想いが、松山さんを動かした。

「生かしきれない鹿の皮を資源として生かすことができれば、いただいた命を無駄なく活用できる。その仕組みづくりが必要だなと思ったんです」

毎年何十万頭もの規模で捕獲される害獣の皮は、本来なら何十万枚もの革に生まれ変われる可能性を秘めている。協力者を求めて、松山さんは自ら各地のタンナーを訪ね歩いた。自身が愛用する帽子やレザージャケットなど、最初は身近なアイテムから制作をスタート。「momiji」は松山さん自身の足で確かな一歩を踏み出した。

「本当に右も左もわからないところからのスタートでしたが、アンテナを張っていると自然と必要な人たちと巡り合える。その縁を大切にしながら、皆さんに助けられて、momijiはなんとか成立しているんです。鞣しの現場を訪れてみると、革づくりは最先端技術の側面もある一方で、原始の時代から受け継がれてきた技そのものだと気付かされます」

momiji×Tokio Hatのキャップ「Deer Cap」。しっかりとした深さがあり、スエード加工を施した柔らかな鹿革が頭を包み込む。

伝統を継承しながら革新を続ける、タンナーの技術に触れて。

タンナーという仕事は、古くから変わらずに受け継がれてきた人間の知恵。だからこそ、他の素材が取って代わることのできない、革にしかない素材の良さを存分に感じられるものを、たくさんの人に届けたいと松山さんは考えている。

「どのタンナーさんも独自のレシピで革をつくっていて、均一ではない素材と向き合い、その個性を生かすことに対する熱量が本当にすごいんです。命を無駄にしないために働く人たちの姿に、何度も心を揺さぶられました。タンナーさんのこだわりや情熱を目の当たりにするたび、ものづくりへのインスピレーションを受け取っています。一緒に新しい挑戦をしたり、研究を重ねたりすることも増えてきて、本当におもしろいんですよね」

近年はタンナーとの協働で、天然鉱物由来の合成ゼオライトを使った鞣しにも挑戦。ゼオライトで鞣した革は生分解性が高く、数カ月で土へ還るという。

野生動物由来の革は傷や個体差が大きく、一つひとつ表情が違う。それを“欠点”とみなすのではなく、“唯一無二の個性”として生かすことこそ価値になる。松山さんは、そこに革がもつ本質的な魅力を感じている。

momiji×Tokio Hatのバケットハット「Deer Dambery」。後ろ半分に施されたメッシュ加工は、傷や穴のある鹿革を生かし、通気性をよくするための工夫。

「大量生産に向く素材はほかにいくらでもあります。でも革には、革にしか出せない魅力がある。手にした人の時間や体温とともに育って、ツヤを纏い、表情が変わっていく。そうやって長い時間使い続けることができ、生きた素材に触れられることこそ革の醍醐味だと思うんです」

レザージャケットのオーダー会では、購入者が実際に材料となる丸革に触れて2〜3枚を選ぶ方式を採用している。革が生まれる背景を体験してもらう場づくりも、「momiji」の大切な軸だ。

「背景を知るのと知らないのとでは、ものの見方は本当に変わります。食べ物でも、自分が生産に関わったものなら、絶対に無駄にしない。それは革も同じで、プロセスに触れることで意識が大きく変わるはずなんです」

有松絞りを施した鹿革のレザーキャップ(momiji×Tokio Hat)とレザーケース。木綿を糸で縛って染色することで絞り模様を出す有松絞りの製法に、薄く柔らかい鹿革で挑戦した。ゼオライト鞣しを施したレザーは土に還り、キャップの金具はニッケルフリーで金属アレルギーを起こしにくい。

モノ、技術、人が循環する仕組みをつくる。

「momiji」の活動は、駆除される動物の皮の利用にとどまらない。最近では、コーヒーフェスで来場者がマグカップを首から下げるためのストラップを、レザーと伝統工芸の「真田紐」を組み合わせて制作したり、京都の伝統工芸「金彩」を施したり、江戸時代から続く絞り染めの技術「有松絞り」でレザーを染めてみたりと、伝統工芸とのコラボレーションにも積極的だ。消えゆく技術の継承と、現代の生活に根差すデザイン。レザーを通じてその両方を繋ぐ役割を担い始めている。

「革も伝統工芸も、守っていくべき日本の資源です。野生動物の個体数調整に携わる人、革を鞣す人、モノをつくる人、使う人。すべてが循環して続いていく仕組みをつくりたいと思っています。大昔から続いてきた循環の流れを、止めずに未来へ繋げたいんです。循環を止めてしまうことで、違う問題が出てきてしまうはずだから。『momiji』を通して、マイナスだったものを少しでもゼロに近づける、あるいはプラスにできる取り組みができればと思っています」

松山さんの言葉は、どこまでもまっすぐだ。廃棄される運命だった獣皮に新たな価値を宿し、失われゆく技術に光を当て、未来へと手渡していく。そんな彼の静かなる活動に、年々賛同者も増えており、いま確かな熱を持って社会へと広がりつつある。

松山ケンイチさん
1985年生まれ、青森県出身。2002年に俳優デビューし、映画『デスノート』(06年)でブレイク。近年はNHK連続テレビ小説「虎に翼」(24年)やTBS「クジャクのダンス、誰が見た?」(25年)などに出演。22年1月にはライフスタイルブランド「momiji」を立ち上げた。主演を務めるNHKドラマ10「テミスの不確かな法廷」が26年1月6日から放送中。
Instagram: @momiji2022_official
X: https://x.com/K_Matsuyama2023
YouTube: https://www.youtube.com/@matsuyama.kenichi


momiji
https://momiji-lifestyle.com/

photography: Mirei Sakaki, text: Miki Suka, styling & hair & makeup: Takahisa Igarashi

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