遊び心あふれる革の雑貨で、日本の伝統文化と職人技を次世代へ!
日本の皮革産業を活性化するために誕生した「創悦」。皮革製造、デザイン、縫製などさまざまな形で皮革産業に携わる職人たちが名を連ねる「日本皮革デザイン促進委員会」により誕生したレザープロジェクトだ。日本の伝統技術と美意識、そしてサステイナブルなものづくりのありかたを、創悦の取り組みから考える。
伝統技術に光を当て、世界に発信する。
琳派、そして葛飾北斎。将棋や福笑いといった、昔ながらの日本の遊び道具……。「創悦」がモチーフとして取り上げるのは、日本らしい文化やアートワークの数々だ。そこに込められているのは、日本のアートと皮革職人の技を世界に向けて発信しようという皮革関連業者たちの強い思いだ。ブランド誕生の背景を探ってみよう。
創悦のコレクションを手掛けているのは、「日本皮革デザイン促進委員会」の幹事を務める株式会社クイーポ。ファッションとエコ・環境の共生にいち早く取り組んだ企業で、1999年にスタートしたオリジナルブランドの「genten」では、限りある資源と環境に配慮したものづくりを貫く。タイとカンボジアに創設した自社工場では、女性の安定的な雇用を生み出すことにも成功している。
「『genten』で企業としての環境意識を明確にした私たちが次に取り組んだことは、日本文化の次世代への継承でした」というのは、クイーポ広報室の岡田育美さん。
「私たちは手工芸が発展した江戸・明治期に作られた、希少価値の高い袋物を展示する資料館を社内に併設するほど、伝統技術の継承に熱心に取り組んでいます。廃れつつある技術に光をあて、日本の文化やそれを生み出した昔ながらの暮らしを世界に発信していこう。そんな思いを形にしたものが、『日本皮革デザイン促進委員会』として立ち上げた『創悦』でした」
素材へのこだわりが、サステイナブルな消費を促す。
創悦が大切にしているのは、環境になるべく負荷をかけないものづくりと、廃れつつある伝統の技・文化とのバランスである。デザインや企画までを手掛ける若手職人がクイーポ社内に在籍し、技術を磨きながらものづくりに励んでいる。素材は、国内のタンナーが鞣したベジタブルタンニンの牛革が中心で、これに和紙や絹などの異素材を合わせることもある。こうした革製品は手馴染みが良くて耐久性に富み、使っていくうちにさまざまな表情を見せてくれる点が魅力だ。
「使っているうちに風合いが増すことで製品に対して愛着が湧き、結果的に商品のライフサイクルが長くなります。素材にこだわることでこのようにサステイナブルな消費行動を促すことが可能ですし、化学薬品を使わずに鞣した革は最終的に土に還すこともできます」
また、鳥獣被害対策の一環として鹿革も積極的に取り入れているのも特徴だ。国産を使うことはカーボンニュートラルへの配慮からも理にかなっている。
北斎漫画や浮世絵がレザーアイテムに。
2015年のブランドデビュー以来、葛飾北斎の浮世絵や琳派の作品をベジタブルタンニンの牛革にあしらい、遊び心のあるバッグや雑貨を揃えてきた。2021年のコレクションのテーマはずばり、「遊び心とスポーツ」だ。遊び心とスポーツこそ、現代の日本、そして世界に欠かせないものだと考え、北斎漫画や数々の浮世絵からスポーツの要素を抽出してバッグや雑貨にあしらった。たとえば、北斎の代表作である「富嶽三十六景/神奈川沖浪裏」を高精細なインクジェットでプリントしたレザーバッグや、オリジナルの総波柄や漢字モノグラムのバッグ、北斎漫画のコミカルな人物と競技名の漢字をグラフィカルに仕上げたバッグなど、遊び心あふれるアイテムを展開している。また、7月にはヌメ革で作られた「将棋トートバッグセット」を発売した。
「一部の海外ブランドではフェイクレザーが主流になるなど、近年は本革離れが進みつつありますが、あえてファッションとは別の視点のアイテムを展開することで本革製品に気軽に触れてもらい、その魅力を知ってもらいたいと考えています」
「食肉の副産物である原皮や害獣駆除された動物の皮を革として再利用することは、命への感謝を表す行為です」と岡田さん。
「なにが正しくて、どういう行動が環境に負荷をかけないのか。正解は誰にもわかりませんが、一つの考えや理念に固執するのではなく、バランスを図ることが大切だと考えています。肉食という習慣があり続け、革が食肉の副産物である以上、作り手は無駄なく作り、消費者はそれを長く使い続ける。そういう素材との向き合い方に思いを馳せてほしい。それが『創悦』に携わる私たちの願いです」
創悦(日本皮革デザイン促進委員会/クイーポ)
tel:03-6672-6672
www.souetsu.com
Instagram: @souetsu_tokyo
photography: Midori Yamashita, editing & text: Ryoko Kuraishi