日本産革を魅力的なプロダクトに仕立てる、東京のクリエイターたちの試み。
日本産革を使い、国内で仕立てるメイド・イン・ジャパンにこだわる作り手たち。今回紹介するのは、東京を拠点とする工場発信のファクトリーブランドと、気鋭のプロダクトデザイナーが手がけるガレージブランド。小規模な作り手だからこそ可能な、ものづくりの新たな視点とは?
Warenfaus東京・蔵前から発信、生産現場の声を生かしたレザーアイテム。
東邦株式会社は、東京のものづくりの中心地である蔵前で、OEM製造を主に行っているバッグメーカーだ。先代が“袋物”と呼ばれるバッグの製造に着手すると、高い技術力と、職人が集まる街に拠点を構えるという地の利を生かしたものづくりで、国内外の企業から高い評価を得るようになった。3代目の丹生慎吾さんが始めたのが、オリジナルブランド「ワーレンファウス(Warenfaus)」である。
「自分たちのようにものづくりの現場にいるメリットは、素材選び、裁断、縫製など、生産のプロセスのすべてに関われること。加えて、蔵前という強みがあります。革屋、生地屋、パーツ屋……製造に必要なものが近所で揃い、かつ、それぞれの顔が見えるのです。それはつまり透明性、トレーサビリティに繋がります。『すべてを目の届く範囲で生産する』、それこそファクトリーブランドの醍醐味ではないでしょうか」
100%自給自足できる、豚革に注目。
OEMにおいてもほぼ9割の製品で国産の革を使っているが、オリジナルブランドではさらにユニークな素材使いに取り組んでいる。たとえば、最近発表した豚革のシリーズだ。
「原皮の中で唯一、100%自給自足できるのが豚皮です。僕たちの地元・墨田区は、豚革の国内シェア90%を誇る一大産地ということもあり、土地のものを使いたいという思いがありました。そこで企画したのが、昔から隅田川沿いで鞣しているタンナーさんの豚革を使ったバッグです」
諸外国に比べて豚肉の消費が多い日本では、副産物である原皮の流通が多く、品質のいいものが揃うという。質のいい豚皮を求めて日本産の原皮を探す海外ブランドも少なくない。
質感や耐久性は牛革には劣るが、繊維が細かくて肌触りの柔らかさが特長という豚革。そうした個性を生かしたショルダーバッグを作り上げた。日常で持ちたくなる、軽く、柔らかなバッグである。
ファクトリーブランドのメリットには、こうした透明性の確保に加えて、「無駄を省ける」といエコフレンドリーな側面もある。多くのファッションブランドは新作を発表する時期が決められているが、丹生さんたちは「いいものができたら発表する」というスタンスを貫く。あれこれ試行錯誤してサンプルを制作し、素材を無駄にすることはしない。クオリティに関して納得できない製品は製造しない。
「余剰素材も積極的に生かします。OEMで出た残りの革を引き取って再プロダクトしたり、通常では使わないハギレをポーチや小銭入れなどの小物に仕立てたり。『こんな素材があるから、こういうものを作ってみたら?』なんて、素材ありきのものづくりも可能です。こうした無駄をなくす取り組みは、生産現場に近いものづくりメーカーならではと自負しています」
無駄をなくしたい。透明性を貫きたい。そんな思いはあるけれど、それを声高に主張することはしない。まずは商品を気に入って手にとってもらう。気に入って使ってもらったバッグが、実はサステナビリティにも配慮して作られたものだと知ってもらう。ものづくりの担い手として、消費者とそんな信頼関係を築いていきたい、と丹生さん。
「ものづくりには正解はありません。素材選びも製造も、自分たちにできるベストを目指していくだけです」
ワーレンファウス Warenfaus
東京都台東区蔵前4-12-2
tel: 03-3866-1881
営)12時〜18時(火、木、土)
休)月、水、金、日、祝
https://nib-online.com
Instagram: @warenfaus_kuramae
Concussion
先端技術と天然皮革の魅力が息づく、ミニマルなプロダクト。
「コンカッション(concussion)」は、3Dプリンタを用いたオリジナルの技法でレザーアイテムを作り出す、東京のガレージブランドだ。手がけるのは、プロダクトデザイナーの小林仁太さん。都内の電子機器メーカーでプロダクトデザイナーとして勤務する傍ら、2017年に「コンカッション」をスタート。本業の現場で欠かせない3Dプリンタを用いて、ものづくりの現場を劇的に変えることができないか、そんな思いを抱いてプロダクト製作を始めたことがきっかけだった。
「コンカッション」のプロダクトは、表面に型押しされた立体的なヘキサゴン(六角形)が特徴的だ。これは3Dプリンタで作成したプレス型で革を加工するという独自の技法で生み出されたもの。
「このパターンはデザイン上のおもしろさだけではありません。構造体としてそのアイテムの強度自体を高めてくれ、パターンを組み合わせるとスタッキングも可能になる、機能的な要素なのです」
そもそも革製品は、革という2次元のパターンから3次元のアイテムに起こしていくプロセスが必要だが、この技法では立体のプレス型を使って成形するという、より工業製品に近いプロセスを採用している。そうしたものづくりにおける新しい視点が評価され、昨年の「Japan Leather Award 2020」ではグランプリとウエア&グッズ部門ベストプロダクト賞をダブル受賞している。
革で“脱プラスチック”を実現する、画期的なアイデア。
使用する革の量と縫い付けの工程が最低限で済むよう設計されている「コンカッション」のプロダクト。工程はミニマルだが、そのデザインや設計にはさまざまなギミックがあふれている。たとえばコインケース。この立体的な形は、形状・強度・軽量さという点で、本来ならプラスチックや樹脂製品でなければ実現できないデザインだという。また、蓋と本体がすっぽり合わさる設計も、プラスチックの成形品のような高い精度で造形できる素材でないと難しいという。それを天然皮革で実現してしまったのだから、脱プラスチックという観点からも画期的なアイテムといえるだろう。
とはいえ、天然皮革を念頭に置いてものづくりを始めたわけではなかった。
「3D CADや3Dプリンタという最新のツールを使うのだから、あえてプリミティブな素材を使ってその対比を見せるのがおもしろいと思っていました。試しに革を使ってみたところ、濡れた状態で圧をかけると伸び、乾くとそのままの形状を保つという革の特性が、この技法に驚くほどマッチしたんです」
「コンカッション」としてのものづくりをすすめるうちに、数十年という優れた耐久性に加えて生分解性を備え、食肉の副産物であるという天然皮革の可能性にますます魅せられるようになった。
「知るほどに革はおもしろい素材だと思います。たとえば原皮に残った傷は、生きていた時の痕跡なんですよね。そうした、“動物の皮”という素材の特性をなるべくプロダクトに生かしていきたいと考えています」
そんな小林さんが現在、興味を持っているのは豚革だ。アメリカなど海外産が多い牛の原皮と比較すると、豚皮はほぼ100%、国内で消費された食肉の副産物だからだ。
「牛革よりも強度が落ちるのでまだまだ試行錯誤中ですが、ゼロ・エミッションという考えからも、よりポジティブなものづくりが可能になると考えています」
今後はこの技法をさらに磨きあげ、プレス加工のみでプロダクトが完成するくらい、ミニマルな工程のものづくりに挑戦していきたい、と小林さん。デジタルとアナログ、現代のテクニックと天然皮革の変わらぬ魅力がひとつのプロダクトに息づく「コンカッション」は、革製品の新たな可能性を指し示してくれる。
コンカッション Concussion
https://concussion.work
Instagram: @concussion.work
photography: Midori Yamashita, editing & text: Ryoko Kuraishi