大阪のクリエイターたちが提案、大切に育てていくレザープロダクト。

個性的なクリエイションで注目を集めている大阪のレザーブランド。エコフレンドリーなものづくりと環境に配慮した取り組みにも力を入れる「カクラ(KAKURA)」と「クアトロガッツ」の2ブランドを紹介する。

KAKURA
使っていくうちに愛着が増す、和のデザインの革製品を。

前職がグラフィックデザイナーだった石原ゆかりさんが、1998年に立ち上げたオリジナルプロダクトブランド「カクラ(KAKURA)」。

「“KAKURA”というブランド名の由来はパプアニューギニアの少数先住民族から。どこか日本らしい響きにも惹かれました。自然と共存し、自然の恩恵を生活に生かしながら長年ずっと変わらずに生活している。そうした変わらないものをつくりたい、流行で変わっていくものではなく、何年経っても古くならない、使っていくうちに愛着が湧くようなものをつくりたい、と思っています」

KAKURAのデザイナー、石原ゆかりさん。大阪・高槻市のファクトリー&ショップにて。

革を裁つのも、革包丁などの道具ではなくカッターと定規を使う。基礎知識がないまま独学で革のプロダクトをつくりはじめたが、先入観がないことでかえって使い手に寄り添った商品開発ができたという。

ブランド立ち上げ当初は、竹の繊維を漉き込んだ紙を和綴じしたノートなど、日常使いできる和文具からスタートした「カクラ」。革のプロダクトをはじめたのは、ブランド立ち上げから3年が経った頃だ。

「革はまったく未知の世界でした。ですが店で扱っていた簾を手がける伝統工芸士の方から、大阪・大国町の革卸問屋が安価な外国製品の台頭やアジアの国々の安い生産に製造が流れ、生産量が落ち込んでいると相談を受けました。江戸時代にも革は使われていて、くるくると革紐で巻き懐中に入れる習慣がありました。そうした和のデザインの革製品を独学でつくろうと決意したのです」

使い手の声を反映し、一から商品開発した革の「紐巻きシステム手帳」。大阪府から大阪製ブランドとして認定された。

「『紐巻きシステム手帳』シリーズは、軽さを追求して裏革をいっさい貼らず、代わりにふ糊を刷毛塗りして毛羽立ちを抑えています。色は4種類あり、『urushi』カラーと呼んでいる赤と黒のコンビネーション、赤革には漆のような艶加工を施しています。またポケット類はすべて別売りのリフィルにすることで自分仕様にカスタマイズしていただけます。デザインを最小限に留め、使い手自身で育て仕上げてもらう、そんな手帳なんです」 

長年使って修理することになっても、構造がシンプルであり、ほとんどの工程を丁寧な手作業で大きめのピッチで縫っているので、メンテナンスも容易だ。

「“お糸直し”と呼んでいますが、蝋引きした糸を全部外して縫い直すことができます。元と同じ色でもいいですし、違う色の糸にしてイメージを変えることもできます。裏革を貼ったりミシンでピッチを細かく縫ったりしていると縫い穴同士が繋がって、そこの革がちぎれたりしますが、カクラの場合は手縫いなのでほとんどそういうことはないですね」

革を漉いた残りの革や、京都の書道家の書や水墨画の反故紙も緩衝材としてリサイクルしている。

持続可能な暮らしのため、革の命を全うさせる取り組み。

商品を包む緩衝材には革製品をつくるために革を薄く漉いた残りの革を使っている。

「革を最後まで使い切るのが私たちの役目です。薄く漉いた柔らかい革はハサミやカッターで簡単にカットできますし、コースターやマウスパッドなどに再利用できます。私たちのプロダクトに縁のあったお客様に、そうした取り組みが広がっていくことを願っています」

新作の『胡座レザー座布団 tsunagu』 は和洋を問わないデザインでさりげなくインテリアに溶け込む。四隅の縫いは二重になる返し縫いをせず井桁になるよう止め、内側で糸処理するなどディテールにもこだわる。35cm角の椅子用、50cm角の床用、そして高さのある胡座用の3種類。

「今年6月に発売された『胡座レザー座布団 tunagu』は、さまざまな大きさの長方形にカットした革を阿弥陀模様に繋いでいます。最後まで革を利用したいという理由もありますが、一枚ずつの革の面積が小さいと、革のハリが保ちやすいのです。贅沢に一枚革で作ってしまうと、革そのものはへたりやすい。また縫い目部分が骨組みとして強度を増しているので、長い期間使うことができます」

こだわりは中材にもある。完全リサイクル素材である最適な硬さの国内材料、国内加工のウレタンチップクッションを厳選。座り心地を何度も試し、座布団のサイズに最適な厚さを導きだしている。

10年、20年と、長い時間をともにするレザーアイテムだからこそ、妥協しないものづくりをする「カクラ」。革のよさは、自分でアンティークに育てられるところだと石原さんは言う。

「手に入れた時がピークでだんだん劣化するものがほとんどなのに、最初のまっさらな状態より使い込んだほうが、より愛着が湧いてくる素材というのはなかなかないですよね。革にはそうした魅力があります」

カクラ KAKURA
大阪府高槻市富田町5−1−20
tel: 072-694-6441
営)10時〜18時(月〜土)、10時〜17時(日)
休)祝、年末年始
www.kakura.in
Instagram: @design_factory_kakura

Quatro Gats
世界でたったひとつの宝物をつくることが、環境配慮に繋がる。

大阪・茨木市の“秘密基地”で革小物を製作し、製造から販売まで手がけるファクトリーブランド「クアトロガッツ」。2008年に誕生した「小さいふ。」は、小ぶりなフォルムながら、収納力も抜群の看板商品だ。

「クアトロガッツ」代表の中辻大也さん(右)、妻でありデザイナーの中辻渚さん(左)。

「『小さいふ。』の定番シリーズのほとんどは、フルベジタブルタンニン鞣しの革を使っています。ですが、もともと環境問題に意識が高いというわけではなかったんですよ」と話すのは、代表の中辻大也さんと妻でありデザインを担当する中辻渚さん。

2003年のブランド設立時、路上販売からスタートした中辻夫妻。大阪を拠点に革の製造販売を行う会社との出会いが、本物の革について考えるきっかけとなった。

2008年に誕生した「小さいふ。」は、現在4種類の個性的なラインナップ。「小さいふ。ペケーニョ」はお札約20枚、小銭30枚程度、カード6枚を収納できる。

まだブランドを設立して間もない頃、革の仕入れのためにその会社に立ち寄り革を吟味していた中辻さん。その時、「革についてまったく素人だった20代の僕に、本物の革について2時間もの間、教えてくれて。革の師匠でもあり人生の師匠でもあります」と、いまではクアトロガッツの商品は、フルベジタブルタンニン鞣しの革をメインで使うようになっている。

「フルベジタブルタンニン鞣しは、1000年以上続く伝統的な手法で、土に埋めたら自然分解されて地球に戻っていく。ピット槽と呼ばれる槽を使い、植物タンニンで鞣すので、素材としての革になるまで180日ほどかかります」

革製品はすべて、熟練の職人による手作業で、ミリ単位で縫製。裏地にも合皮や布は使わず、天然皮革を贅沢に使用。

天然皮革だから実現できる、サステイナブルな愛用品。

「少しでも長く使ってもらうものを提供することが、自分たちのものづくりとしてできる、最低限の責任だと考えています。たとえば僕らの作る財布や鞄には、革素材以外の裏地は付けない。修理がしやすいという理由もありますが、布の寿命がだいたい2年、合皮が3年弱くらい、革は5年以上もちます。どんなよい財布でも、布や合皮の裏地だと内側から壊れていくからです」

そして最も大切なのが、使い手にとっての宝物をつくるということ。

「世界にたったひとつしかないものだと、よい意味でものに執着が生まれて大切に使ってもらえるのでは」との発想から生まれたのが「世界にひとつだけシリーズ」だ。100種類以上の革の中からスタッフがひとつひとつ色合わせをして、同じ色合わせのものは作らない、自分だけの一点物の財布。これまでデザインした財布は5000種類を超える。

漫画家の手塚治虫や楳図かずお、テキスタイルブランドSOU・SOUなど、クリエイターやブランドとコラボレーションした商品も多い。

「使い手にとって、ただひとつの価値がある宝物と思ってもらえるのであれば、私たち職人も単なる財布を作っている人ではなくて、その人にとっての宝物をつくる職人なんだと誇りに思うし、そうなったらいいと思いながらスタッフ一同でつくっています」と話す中辻さん。自分にとっての宝物と出合い、愛でることは、人生を豊かにするだけではなく環境に配慮することでもあると、あらためて気付かせてくれるプロダクトだ。

クアトロガッツ Quatro Gats
tel : 050-1441-7419
https://quatrogats.com
Instagram: @quatrogatsjp

photography: Sadaho Naito editing & text: Akiko Wakimoto

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