経年変化していく革を使い、 ハンドメイドで革小物をつくる理由。
東京・大岡山の商店街の外れに、一点もののレザーアイテムをオーダーメイドする、ギャレットワークス(GARRET WORKS)の路面店がある。オーナーの佐藤寛(ゆたか)さんは、ファッションブランドで20年仕事をしながら独学でレザークラフトを学び、6年前にこの店を開いた。
古い柱時計がカチコチと時を刻み、100年前のフランス製の傘や鳥かごなど、さまざまなアンティークが並ぶ店内。ここで佐藤さんがオーダーを受けて制作するのは、彫金師から注文を受けた革のエプロンや、40年代のジッパーを使ったホースレザーのバッグ、フランス海軍のヴィンテージボタンを使ったウォレット、美しい色合いのサドルレザーの眼鏡ケース、手帳カバーなどさまざまだ。
革には、育てていくおもしろさがある。
佐藤さんが使うのは、経年変化するベジタブルタンニンで鞣された革。馬具に多く用いられるサドルレザーをはじめ、多種多様な革が並ぶ。和牛を日本で鞣した革は、あまり時間を置かずに経年変化が進み、革を使い込む醍醐味が体験できるという。
「ベジタブルタンニン鞣しの革は、育てていくおもしろさがあります。同じ革で作った財布でも、パンツのポケットに入れて使っていると光沢が出て味わいが深まり、バッグの中に入れて持つときれいな状態を維持できる。使う人の生活スタイルに合わせて変化するので、表情は人それぞれ。すべて均一ではないのが、革のおもしろさなんです」
留め具にはイギリスやフランスのヴィンテージボタンやジッパーを加えて、一点ものに仕上げる。なかには50年代から60年代のジャケットの袖に付けられた犬や狼、鹿など動物モチーフのボタンや、フランス海軍を表すアンカー(錨)モチーフのボタンなども。
「古着に夢中になった時期に、古い時代のボタンやジッパーに出合ったんです。もう一度このパーツを使ってあげたい、命を吹き込んで生まれ変わらせたいと思ったことが、革小物をつくり始めたきっかけです。同じものを探そうと思っても二度と手に入らない。革とともにゆっくりとエイジングが進んでいくのも魅力ですね」
ギャレットワークスのロゴは、手縫い針と糸がコンセプト。店内にミシンはなく、木槌や針、糸などの道具が並ぶ。革にひとつひとつ穴をあけて糸を通し、すべて手縫いで仕上げるのも佐藤さんのこだわりだ。
「手縫いだとステッチに温かみが出るんです。ステッチを際立てたい時は、あえて太い糸を使い凹凸を付けるなど、ミシンではできないこともある。ミシンを使って量産してみたら、と言われることもありますが、お互いの顔を知り、自分で革をカットして手で縫ってつくり、渡したい。そのほうが長く愛着を持って使ってもらえるかなと、思っています」
使う人そのものを物語る、革小物を目指して。
佐藤さんと革との出合いは、古着がきっかけだった。
「前職のヨウジヤマモトで働いていた時に、ヴィンテージウエアに夢中になりました。どんなブランドのコレクションも元をたどれば、原点はヴィンテージウエア。素材やデザインをアレンジして発表しています。本物はどんなものなのか見てみたいと思ったんです」
なかでも1920年代から70年代のレザージャケットに惹かれた。店内には、建築家のル・コルビュジエも愛用していたという、趣のあるレザーコートも掛けられている。
「経年変化がすごくかっこいいんです。見た目だけではなく、古いものを手入れし使い続けて、自分のものにしていく、そういう物との付き合い方に共感しました。デザイナーの山本耀司さんに教えてもらったのは、“身に着けるものは、その人そのもの”だということ。たとえばこの1940年代のブーツは、壊れたジッパーに手を入れソールも替えていますが、革は生きている。いま僕が作っている革小物もずっと生き続けて、使う人に長く寄り添うものになってほしいと思います」
ギャレットワークス GARRET WORKS
東京都大田区北千束1-67-7
営)14時~24時 (月~土)
休)日
https://garretworks.handcrafted.jp/
Instagram: @ garret_works
photography: Midori Yamashita, text: Maki Shibata