田中シェンのレザーアイテムは、自分らしさを体現する存在。
田中シェン(アーティスト)
周囲をぱっと明るくする、太陽のようなエネルギー。彼女の頭の中で生まれる独創的なアイデアは、さまざまな表現手段によって世界に発信されていく。モデル、俳優、イラストレーター、動画制作やSNS配信など、マルチな活躍で注目を集める田中シェンさん。ファッションを学んだこともある彼女が大切にする、自分らしさの宿るレザーアイテムには、特別な思いが込められている。
世代を繋ぐ、軽やかなレザージャケット。
髪をなびかせて颯爽と登場した田中さんは、ゆったりサイズのレザージャケットを纏っていた。個性的なデザインとやや大きめのサイズ感が、彼女の顔立ちを一層スタイリッシュに見せている。
「これは昔、父が着ていたレザージャケットなんです。私がまだ小さい頃に一緒に行った旅先で買ったもので、着られなくなっても手放さず、クローゼットに大切に保管されていました。私、親から何かを受け継ぐということに憧れがあったんです。父にこのレザージャケットを譲ってほしいと伝えたら、すごく喜んでくれて。購入してから20年近く経ちますが、父がメンテナンスをしてくれて、すごくよい状態に蘇りました。マジックテープが付いていたり、脇下や襟下にリフレクターが施されていたりと小技が利いていて、現代ではなかなか出合えないデザインにもグッときました」
父から受け継いだこのレザージャケットを頻繁に着るようになり、田中さんは自身がもっていた革の重厚なイメージを大きく覆されたという。
「レザーのジャケットには重くて硬いイメージがあったんです。自分が着られてしまう感覚もあったし、自分の身体になじむまでに時間がかかるものだと思いこんでいました。でも父のジャケットはすごく薄くつくられていて、軽やかに羽織れる。それに若かりし頃の父がよく着ていたせいか、私の身体にもすぐになじんでいく感じがしました」
メンズライクな革靴が、ファッション人生の大きな転機に。
田中さんがSNS投稿や動画配信で披露する私服は、ユニセックスな雰囲気と抜け感のあるスタイルが多く、アクティブな田中さんの魅力を体現しているかのようだ。
「2、3年前くらいまでは、ハイブランドのモードな服が好きで、いまとはまったく違うファッションだったんです。でもコロナ禍を機に、自分のなかでファッションに対する価値観や意味合いが、本質的に変わってきた気がします。シーズンごとに異なるデザインを手に入れるのではなく、よいものを長く着たいと思うようになりました。それでたどり着いたのが、メンズファッションだったのだと思います」
ファッションの方向性を一気にシフトさせた田中さん。ウィメンズに比べるとバリエーションの少ないメンズアイテムだからこそ、「質」にこだわっている。そのファーストステップとして手に入れたのが、メンズライクな革靴だった。
「自分の身の丈にあったプライスだったし、革ならずっと履き続けながら育てられると思いました。最初は靴擦れで痛かったのに、いつの間にか自分の足の形に合ってきて、いまでは最も歩きやすい靴に成長しましたね」
父のレザージャケットと同様に、長く使うことで自分になじみ、味わいが増していく革ならではの魅力を、田中さんは楽しんでいる。学生時代にファッションを学んだ田中さんにとって、素材がもつ魅力を追求することもまた、ファッションの楽しみなのだろう。当時はタンナー(製革業者)の工場見学にも行き、素材としての革が生まれる現場を目の当たりにしたことを、いまでもはっきりと覚えているという。
「命からいただいた素材を纏うことの尊さを感じたのを覚えています。いまでは食物連鎖の一環として、きちんと生かすという意味で、レザーを大切にしたいと強く思うようになりました。だから、私が父親から受け継いだもの、そして自分らしさを求めて購入したもの、そのどちらも長く使い続けることが大切だと思っています。それに、レザーアイテムを大切に使い、次世代へ受け継いでいくのは、とてもロマンティックなことだなって思うんです」
田中シェン Shen Tanaka
鹿児島県出身。英語、中国語、日本語を操るトリリンガル。中学生の時からアメリカで学生生活を送る。大学ではファッションを学び、大手アパレル会社に就職。その後、モデルへ転身。インスタグラムでイラストが人気になり、イラストレーターとしても活動中。国民的キャラクターのちびまる子ちゃんとのコラボレーションも。2022年にSHENTASTIC creative studioを立ち上げ、アーティストとして始動。俳優としては、NHK大河ドラマ「いだてん~オリムピック噺~」(19年)やNetflix「First Love 初恋」(22年)などに出演。
https://shentastic.try-angle-2.com/
Instagram:@shen_tanaka
photography: Sayuki Inoue interview & text: Miki Suka