時を重ねるほどに愛おしくなる、菊池亜希子のレザーアイテム。

菊池亜希子(モデル、俳優)

17歳でモデルデビューし、現在は俳優、エッセイ、イラスト、雑誌撮影など幅広く活躍する菊池亜希子さん。温かく柔らかい笑顔のなかに、揺るぎない強い芯を感じさせる。そんな彼女の魅力は、長年大切にしてきたレザーアイテムにも映し出されていた。

ショルダーバッグの革が繋いでくれたバトンを受け取る。

菊池さんが1年ほど前から愛用しているというトートーニーのショルダーバッグ。裁ち落とした革を27枚繋ぎ合わせてつくられた、個性的なデザインが目を引く。雑誌の連載でトートーニーのオーナー兼デザイナーに取材する機会があり、使う人とつくる人との距離感が近いものづくりの姿勢に共感し、このバッグをオーダーした。

「革のサイズや枚数、持ち手の長さなどを自分のスタイルに合わせてカスタムメイドできるんです。普段の洋服に合う肩掛けしやすい長さ、いつも持ち歩くものがちょうど入るサイズ感などを考えながら、長く使えるバッグをつくり上げていく。そんなクリエイティブな気持ちが刺激されるプロセスにもわくわくしました」

この「ピースバッグ」シリーズは、製品をつくる際に裁ち落としとなった革の端の部分をパッチワークのように繋ぎ合わせている。菊池さんのバッグに使われている革のピースも、よく見ると一枚一枚微妙に異なる色や質感をもつ。

「革の端を無駄にせず、新たな命を吹き込むというサステナブルな発想も素敵だなと思いました。それに、私はパッチワークという手法がデザインとして好きなんです。不揃いなものに手を加えることで生まれる陰影や凹凸。ついつい触りたくなるし、自分にフィットする感じがします」

菊池さんは、トートーニーのつくり手の愛情と素材への敬意が伝わるエピソードも教えてくれた。

「革の業者さんが革を納品しに来た際に、『ポンポン』と革を撫でてから帰っていくそうなんです。その話を聞いたとき、この革をきちんと受け取って、大切に使い続けなければいけない、というバトンを受け取ったような気持ちになりました」

ピースバッグなどで使われる裁ち落としの革には、傷がついたものもある。しかし、オーナーは「そこが可愛い」と語るそうだ。

「まっさらなものじゃないと満足できない感覚は、そろそろ手放していきたいなと思っています。傷やシミは、使い込んでいくうちに愛着に変わる。いっぱい撫でて、触れ合って。このバッグとこれからも長く付き合っていきたいなと思っています」

頼れる相棒のスリッポン。

「私にとって靴は、自分の一部のようなもの」。そう語る菊池さんが愛用するのは、nakamura shoesのスリッポン。高校時代からの友人夫婦がnakamura shoesでオーダーメイドしていたのを見て、「いつか自分もつくってみたい」と思っていたという。

「当時は娘がまだ小さかったので、紐靴は難しいなと思い『とにかく楽に履ける靴を』とオーナーの中村さんに相談。そこで勧められたのが、このサイドゴアでクレープソールのスリッポンでした。本当に歩きやすいんです。スニーカーのような感覚で履ける、まさに日常の相棒です。黒で細身のシルエットがコーディネートを引き締めて、大人っぽい印象に仕上げてくれるのも気に入っています」

素材は数あるレザーのなかから好きなものを選ぶことができる。迷った末に菊池さんが選んだのは、成牛のヌメ革。アトリエショップで、スタッフが実際に履き込んでいる靴を見て、足の甲の部分へのしわの入り方に惹かれたという。

「あえて、しわが寄っていきやすいものがよいなと思って選びました。きれいな状態をキープし続けるのは、靴も私もお互いにしんどいというか(笑)、新品の状態がピークで、そこから下り坂になってしまうのは切ないですよね。だから私は、経年変化でより魅力が増すものを無意識に選んでいる気がします」

「私らしさ」を支えてくれた、20年来の宝物。

菊池さんが所有する革製品の中で最も古いというのが、焼き立てのコッペパンのような色をした革靴。20歳くらいの時に古着屋で出合ったというこの靴は、偶然にもサイズがぴったりで、その佇まいや革の色、そして履いたときのバランスなど、すべてが菊池さんの心を掴んだ。

この靴を履いて、数々の雑誌のスナップ撮影や連載企画に登場した菊池さん。読者からイラスト付きで届く手紙には、必ずといっていいほどこの茶色いブーツが描かれていたという。

「仕事を始めた当時は、自分を表現するうえで『自分らしさ』とは何か、どこに軸足を置いたらいいのか、という不安が常にありました。でも『私らしいってこういうこと!』と声を大にして言うのは恥ずかしいという、あまのじゃくな部分もあって。気づいたらにじみ出ていればいいなと思えるようになったとき、このブーツは私にとって大きな存在でした。『あっこちゃんはいつもそれ履いているよね』と声をかけられるのがうれしいんです。一生手放すことなくそばに置いておきたい靴ですね」

愛用品を通して見える、その人らしさ。

2025年3月に、雑誌「天然生活」(扶桑社)での連載をまとめた書籍『菊池亜希子のありが10(とう)ふく、みせて!』が3月27日に発売される。菊池さんが、いま会いたい友人やクリエイターをゲストに迎え、愛用するファッションアイテムを通して、それぞれの価値観や人生観を探っていくという内容だ。

「なぜそのアイテムを選び、大切にしてきたのか。想いや歴史、コンプレックスまで、皆さんのエピソードを聞くたびに私自身の価値観も揺さぶられます。家に帰って自宅のクローゼットを見ると『そっか、こういう思いで向き合ったらいいんだな』と、すでにあるものがアップデートされて見えてくる。“おしゃれ欲”は個性や価値観が現れるものだからこそ、その人を理解するための大切な入り口になるんだと実感しています」

菊池亜希子 Akiko Kikuchiさん
(プロフィール)
1982年生まれ、岐阜県出身。17歳でモデルデビュー。以降、俳優、エッセイ、イラスト、雑誌編集など、多方面で活躍中。主な出演作に、映画『ぐるりのこと。』(2008年)、『グッド・ストライプス』(15年)、『かそけきサンカヨウ』(21年) など。著書は『みちくさ』(小学館)、『好きよ、喫茶店』(マガジンハウス)、『へそまがり』 (宝島社)、など多数。interfm「スープのじかん。」のナビゲーターをつとめる。25年3月27日には、雑誌「天然生活」の連載「ありが10(とう)ふく、みせて!」をまとめた書籍を扶桑社より刊行予定。
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photography: Mirei Sakaki
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interview & text: Mikako Tsutsumi

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