伊藤健太郎が“理想のレザージャケット”に込めた思い。

17歳で俳優デビューを果たして以来、ドラマや映画の世界で確かな存在感を放ち続ける伊藤健太郎さん。コミカルな役柄からシリアスで重厚な作品まで。どんな役でも自然体で演じきる彼の魅力は、太陽のような明るさと、等身大の飾らない人柄にある。そんな伊藤さんが、「革きゅん」とのコラボで唯一無二のレザージャケットをつくりあげる。そのまっすぐな瞳で、どのようなプランを思い描いているのだろうか。
革への愛を育んだ、絶対に手放せない“運命の革ジャン”。
まずは、彼がどれほど革を愛しているのか——。
伊藤さんが俳優として社会に出た10代半ば頃、彼のファッション観に大きな影響を与えた出来事があった。ある“革ジャン”との運命的な出会いだ。
「16歳の時、ふらっと入った中目黒の古着屋で偶然見つけたんです。少しくたびれたレザーのカレッジジャケットで、腕に『97』って数字が入っていた。自分が1997年生まれだから、『これは運命だ!』って思って。即決でした」
後に、それが1997年の大学卒業を記念してつくられたジャケットだったと知り、ますます愛着が深まった。革ジャンへの憧れ、そして運命を感じた数字との巡り合わせ。以来、彼はそのジャケットを手放すことなく、まるで肌の一部のように着続けてきた。
「地元の友人と遊ぶ時も、撮影現場に行く時も、毎日着ていました。本当に気に入りすぎて、寝る時にも着ていたくらい(笑)。ほかの服は後輩に譲ることもあったんですけど、この革ジャンは別です。いまはすっかりくたびれて以前よりも着る機会は減りましたが、自分にとっては宝物で、絶対に手放せないんです」

伊藤さんが16歳の時に手に入れたオールドスタイルのカレッジジャケット。いまでは伊藤さんの身体に寄り添うように馴染んでいる。


実在する大学のエンブレムと卒業年のワッペンがあしらわれている。
憧れの人のファッションが、革好きの原点。
10代の頃、同世代がスニーカーにハマっていく中で、伊藤さんはレザージャケットにレザーのペコスブーツという、武骨なアメカジスタイルを貫いていた。
「中2から高1くらいの時だったかな。近所に憧れのお兄ちゃんがいて。その人のファッションがめちゃくちゃかっこよかったんです。ジーンズに革ジャン、レザーのブーツ……。9歳離れた僕の姉も含めて、周りにはおしゃれな人が多くて。僕はいつもその人たちの背中を追いかけていました」
そんな当時のアメカジやレザーアイテムへの憧れが、いまに繋がっているという。長年愛用している革財布も、姉から譲り受けたものだ。
「トラッカーウォレットっていうタイプなんですけど、ボタンで留めるシンプルなつくりで、すごく頑丈。欲しい財布がなかなか見つからないでいた時に、姉が新品で持っていたものを譲ってもらいました。使っていくうちにシワができ、いつも履いているジーンズのポケットに、この財布のコンチョのかたちが出てきたりして。なんかそういう変化がすごくいいなって。何度もオイルでメンテナンスして、もう7年近く使っています」

愛用のトラッカーウォレットを見つめる伊藤さん。その眼差しは優しい。
持ち始めは硬かった革も、使うほどに手に馴染み、柔らかく育っていく。そんな経年変化を味わうのが何よりの楽しみだと語る。大人になったいまは、クローゼットは大好きなレザーアイテムでいっぱい。お気に入りのアイテムを、ひとつひとつオイルでメンテナンスする時間は、いまや生活のルーティンで、“無”になれる大切なひとときになっている。
「中古で買ったものは、傷や汚れを見つけると、かつての持ち主のスタイルを想像できる。新品なら、少しずつ増えていく傷やシミに自分の時間が刻まれていく。たとえば、何十年後かに誰かの手に渡った時、胸元に跳ねたラーメンの汁でさえもロマンになるんですよね(笑)。革って丈夫だから、そうやって物語が繋がっていく。それがレザーの魅力なんだと思うんです」
命に敬意を払う、レザーのコーチジャケットづくり。
そんなレザーへの愛を詰め込んで、いま制作が始まったのが、伊藤さん自身も愛用しているナイロンのコーチジャケットを、レザーで仕立てるという試みだ。
「コーチジャケットのかたちや着やすさが好きで、現場にもくるくるって小さく畳んで持っていくと、肌寒い時とかにすごく便利。見た目もシンプルでかっこいいし、ずっとレザー版があったらいいのにと思っていました。でもなかなか理想のバランスのものに出会えなかった。今回それを自分でつくれるって、めちゃくちゃ楽しみです!」

よどみのない楽しげな手つきで、コーチジャケットのスケッチを描く伊藤さん。
そして彼が今回制作するレザーのコーチジャケットに込めたテーマは、“Appreciate Life”。命ある素材に敬意を払う、伊藤さんらしい思いが宿る。
「革って、僕らが食べさせてもらっているお肉の副産物として生まれたものだけど、もとは命だったもの。僕は、その命を着ることを選んで生きているんです。着させてもらっているからには、いつも感謝を忘れないでいたい。そんな感謝をロゴとして文字にしておくだけでより意識できる。その一着が、特別になるんじゃないかと思いました」
まっすぐな情熱が、またひとつかたちになる。伊藤健太郎さんの“愛”が詰まったジャケットづくりが、いま動き出す。

伊藤健太郎さん
1997年生まれ、東京都出身。モデルを経て、10代で俳優デビュー。『今日から俺は!!』で一躍注目を浴び、映画『惡の華』『とんかつDJアゲ太郎』などの話題作に出演。映像・舞台問わず、ジャンルレスに活躍を続ける注目俳優のひとり。2024年に『光る君へ』で大河ドラマ初出演を果たし、25年には、映画『少年と犬』や『#真相をお話しします』に出演。主演ドラマ『未恋〜かくれぼっちたち〜』や、ドラマ『彼女がそれも愛と呼ぶなら』(小森氷雨役)でも新境地を開いた。
Instagram: kentaro_official_
photography: Sayuki Inoue, movie director: Mitsuo Abe, cinematography: Kegan Yako, styling: Yuya Maeda, hair & makeup: Tatsuya Nishioka (Leinwand), text: Miki Suka