革づくりの現場を体感! 革きゅん工場見学・ワークショップレポート。

兵庫県姫路市は国内有数の革の産地だ。その歴史は古く、1000年以上といわれている。2022年12月、革きゅん読者を招待して、皮から革を生み出すタンナーの工場見学と、革を使ったワークショップを実施。鞣しの工程をはじめ、普段なかなか見ることのできない製造現場で、参加者は革づくりの奥深さに触れた。

最初に訪れたのは、姫路市のタンナー「オールマイティ」。創業者は水瀬冨太郎、1世紀以上にわたってタンナーを営んでいたが、2008年の社名変更に伴い、若いクリエイターと直接コラボレーションできるよう、1枚からでも受注する小ロット生産をスタートした。動物の原皮をレザーアイテムに使用する革にするまでには多くの工程が必要だが、4代目である代表者の水瀬隆行さんがその製革工程を説明してくれた。

工場内に足を踏み入れた参加者から最初に驚きの声が挙がったのが、革の原材料である原皮の種類の多さについてだった。「牛や豚はもちろん、シカ、クマ、イノシシ、アナグマ、魚など、『オールマイティ』という社名のとおり、あらゆる原皮を扱っています」と水瀬さん。いずれも食肉用や害獣駆除された野生動物など、全国から集められたものだ。野生動物の皮はこれまで廃棄されることが多かったが、命を無駄にせず生かしたいという想いから鞣すようになったという。

害獣として捕獲・駆除され、塩漬けされたイノシシの原皮。徳島まで車で取りに行ったという。イノシシは脂肪が多く取り除くのが難しいが、タンナーの技術力で命を無駄にせず革として社会へ循環させていく。

「太鼓」または「ドラム」と呼ばれる大きな樽のような形をした容器が回転する機械装置の前で、皮が革になるまでの工程を説明するオールマイティ代表者の水瀬隆行さん。

食肉の副産物である原皮は、そのままでは腐敗してしまうため塩などで保存処理がされる。その後に「ドラム」で皮に付着している汚れなどを水で洗い流しながら水分を補い、生皮の状態に戻していく。この水漬けと呼ばれる作業は、この後の工程において非常に重要な役割を担っているという。

「革がエコフレンドリーな素材であることに惹かれ、実際に革ができるまでの製造工程を見たいと思って申し込みました。思った以上に大量の水を必要とするのに驚きましたが、排水の処理など下水道の設備がしっかりしていて安心しました」と、環境問題を勉強している参加者のひとりが話す。

墨染めや奄美の藍染め、泥染めなど、趣ある革に触れて感触を確かめる参加者たち。

水漬けの後には、皮の裏面に付着している不要なところを取り除く裏打ちという作業を行い、脱毛、石灰漬け、脱灰、酵解、浸酸などを経て、ようやく鞣しの工程に入る。「当社では「姫山水」「渋山水」という独自名称の2種類の革を中心に、オリジナルの「牛脂なめし」、猟師から生まれた「燻なめし」などさまざまな鞣し方法を研究しながら、常に新しい革づくりに挑戦しています」と、革を取り出しながら水瀬さんは語る。独自に開発したオリジナル革「姫山水」を参加者たちは実際に手に取り、その柔らかさと滑らかさに皆一様に感嘆した。

「大学の狩猟サークルでシカをワナ猟で捕獲し解体した経験から、いつかシカの皮を鞣すことができたら」と語る大学生の女性はシカの革を手に取り、雌雄の違いや年齢によって革の風合いと柔らかさが変化することに興味をもっていた。親子で参加したオーダーメイドのカバン作家の女性は「普段製作に使うのは牛革やヤギ革が多く、クマ革やイノシシ革など、珍しい革を見ることができて参考になります」と、新たな創作のヒントを得たようだった。

毒針を持ち、主に浅瀬の岩礁に生息する魚のアイゴ。海藻の食害防止のために駆除され廃棄されていたアイゴの皮について相談を受け、2年の開発期間を経て革の商品化に成功。「水温30℃で溶けてしまうので苦労しました」と水瀬さん。

ほかにもツキノワグマや巨大なヒグマ、ダチョウの脚、魚のアイゴといった希少な革、そして奄美の泥染めや墨染め、柿渋染めなど染色方法もさまざまな、多彩な表情の革が勢揃い。とりわけ話題を集めたのが、独自の方法で鞣し、厚さ0.1ミリにまで漉かれたレザーの扇子だ。タンナーの技術力の高さと革のもつ可能性に、参加者全員が興味津々だった。

0.1ミリの極薄革を使い、大阪のセレクトショップとコラボレーションしたレザー扇子。

オールマイティで鞣した革で製作された商品サンプルも。

次に向かったのが、オールマイティから徒歩圏内の「ペレテリア」。ドイツ留学時にレザーマイスターの資格を取得した中島勇さんが代表を務める「ユニタスファーイースト」が2021年夏にオープン、姫路レザーの魅力を体験しながら楽しむことのできる施設だ。1階はカフェとレザークラフト工房、2階のスペースには姫路のタンナー約20社の革が一堂に会し、気に入ったレザーは購入することも可能だ。

ワークショップの講師を務めた中島勇さん(中央)。

今回、参加者たちはカフェで食事を楽しんだ後、レザークラフト工房にて、型押しされた革に顔料で色付けしていくポンペレ技法を体験。世界でひとつだけのオリジナルペンケースを製作した。色を重ねて新しい色を作り出したりグラデーションにしたりと、それぞれ個性的な色付けをした後は、乾燥させて成形し、パーツをゴムのりで接着する。ミシンでの縫製や金具止めは熟練したスタッフが担当するので初心者でも問題はない。最後にコバ(革の裁断面)に色を塗って完成だ。

「姫路のブランド『ノーノーイエス』が手がける、一枚革を縫わずに仕立てた『所作』の長財布に出合い、革の魅力にハマりました」と、参加者のひとりである服飾専門学校の男性は語る。「自分なりに革の勉強をして、情報としての知識はありました。でも実際に皮から革になる工程を自分の目で見て、革に触れることで、鞣し方が違えば手触りも弾力もまったく違うことに気づきました。こんなに手がかかるものだと知り、より革への興味が深まりました」

革が生まれる現場を見て、一点ものの革製品を創り出した時間は、参加者たちにとって革についての新たな視点が生まれ、その魅力にあらためて気づかされる体験だったようだ。

型押しされた革に好きな色を重ねていくポンペレ技法のワークショップ。子どもから大人まで、未経験でも気軽に参加できる。

ペイズリー柄などの型押しが施された革に、好きな3色を選んで思い思いにスタンプを押すように色付けしていく。

色付けした後は、工房の熟練スタッフがミシンで縫製。

所要時間1時間ほどで、世界にたったひとつのオリジナルペンケースが完成。

オールマイティ
兵庫県姫路市花田町高木290
http://almighty-ame.jp
Instagram: @almighty.ame

ペレテリア
兵庫県姫路市花田町高木124
https://pelletteria.uniters.co.jp
Instagram: @pelletteria.official

photography: Sadaho Naito editing & text: Akiko Wakimoto

BACK TO LIST

PAGE TOP