レザーのプロと学生がタッグを組んで、資源ロスに取り組む「レッザレジリエンス」とは。

プロジェクトから誕生した「ハットランプ」は、2023年4月以降発売。

浅草の富田興業と国際ファッション専門職大学によるプロジェクト「レッザレジリエンス」がスタートしたのは、2021年4月のこと。キズや虫食いなどの理由から市場に流通されずに残ってしまう“D級レザー(*)”の有効活用をすることで、業界全体の課題解決を目指そうというものだ。このプロジェクトが生まれた経緯を、富田興業の社長・富田常一さんに聞いた。

「一般的に、革製品に使用される革素材は、市場に流通する前の段階で、キズや虫食い、色ムラなどのコンディションによってA級、B級、C級、D級……と等級分けがされています。革は動物の皮を原料とした天然素材なので、キズなどがあるのはあたりまえ。それでも製革業者はすべてのレザーを資源として有効活用できるよう、さまざまな工夫を行っていますが、製品をつくる側は『キズのある製品は販売店に納入できないため、仕入れられない』という悩みを抱えています。このような事情からD級レザーは長く倉庫に眠っていることが多いため『規格外レザー』として敬遠されてきました」

このように規格外レザーは業界全体の課題でありながら、従来のサプライチェーン内で解決するには困難な事情があった。

*「D級レザー」は一般的な名称ではなく、本プロジェクトで使用している造語です。

サステナブルな社会の実現に向けて、D級レザーの新たな有効活用を見つけて資源の有効活用を促さなくては、という思いを抱えていたという富田さん。

富田興業が開発したサステナブルなレザー、「レッザボタニカ」。

そもそも富田興業では、ワインやコーヒー、お茶の搾りかすといった食品廃棄物からポリフェノールやオイル、色素を抽出し、これを鞣し・染色に再活用する「レッザボタニカ」を開発した経緯がある。サーキュラーエコノミーを目指してサステナブルレザーを開発したのに、普段の業務ではA級レザーばかりを扱っている……そんな現実に矛盾を感じていたところ、国際ファッション専門職大学教授の平井秀樹さんから、「ファッションビジネスを学ぶ学生のインターンシップとして、規格外レザーの問題に取り組んだ商品を共同で開発できないか」という提案を受けたという。一方、平井さんが協働を思いついたのは、業界の常識に染まっていないZ世代の柔軟な発想や思考から、資源ロスという課題解決の糸口が見つかるのではないかと思ったから。両者の思いが一致し、同校の平井ゼミで学ぶ学生たちが600時間のインターンシップを利用し、富田興業の社員と一緒に新製品の研究・開発に取り組んだのが「レッザレジリエンス」だ。

富田興業で行われた、社員と学生たちのミーティング風景。

アパレル業界で長くマーケティングや新規ブランド開発、コラボレーション開発などに携わった、国際ファッション専門職大学教授の平井さん。同校ではファッションビジネスの理論と実践を教える。

プロジェクトの一環として学生たちが関東圏のタンナーを見学。鞣しについて学んだ。

1年半に及んだプロジェクトでは、D級レザーにある小さなキズを生かして夜空の星に見立てたランプシェード、キズをデザインとして前面に打ち出した藍染の財布、廃棄される生花をドライフラワーに仕立て、ラッピングペーパーの代わりに革で包んだスワッグなど、さまざまなアイデアが生まれた。社内コンペで最優秀作品に選ばれたランプシェード(写真1枚目)は岡山県の家具メーカー、AKASEのもとで製品化が進んでおり、今春発売されることになった。

これまでのプロセスを振り返り、「学生たちが教室で学んできた商品開発やビジネスモデルの立案・構築を、産業界の課題と照らし合わせながら現場で実践できたことは、学生たちにとって大変有意義だった」と平井さん。プロジェクトの実務を主導した富田興業の森田正明さんも、「アイデアの探索から試作品制作にいたるまで業界の常識や先入観にとらわれない学生たちの自由な発想と、それぞれのライフスタイルに基づいた提案が新鮮だった」と感じている。

学生たちのアイデアをそのままプロダクトにした初期の試作品。小さな穴の空いたD級レザーを加工し、ランプシェードにすることで、穴から漏れる光を夜空の星に見立てた。

学生たちの思いを汲み取りながら実用的なアイテムに落とし込んだのは、AKASEのプロダクトデザイナー、黒住さん。

最終的に学生たちのアイデアはAKASEのデザイナー、黒住千明さんの手により革製のペンダントライトに仕上がった。主役である革のシェードに目がいくよう、ほかのパーツはミニマルにデザインされており、木のパーツには家具の製造で出る小さな部材を転用している。サステナブルという視点を取り入れたアイデアだったことから、製品化においてもなるべく廃棄ロスを抑え、環境負荷の少ないものに仕上げることを意識したという。
「AKASEが手がける家具のブランド『マスターウォール』は“100年後のアンティーク家具へ”というコンセプトのもと、永く、心地よく使える家具を製作しています。このペンダントライトもそうしたコンセプトに連なるプロダクトに仕上がったと思います」(黒住さん)

D級レザーを用いたペンダントライト。木のパーツの利用にあたってもサステナビリティを意識した。

学生たちとのミーティングやディスカッションを主導した、富田興業の森田さん。

これまで富田興業とは縁のなかったインテリアプロダクトを製作することで、D級レザーの活用の幅を広げることができたという今回のプロジェクト。森田さんによれば、このプロジェクトの発信をきっかけにD級レザーの企画を立ち上げた取引先がいるそうだ。今後、一般消費者にもD級レザーの存在が広まることで、異業種とのコラボレーションが増える可能性も高そうだ。

このプロジェクトの別の成果物である猫の爪研ぎは、「ジャパン レザー アワード2022」の学生部門で最優秀賞を受賞。

プロジェクトに携わった3人はそれぞれの立場から、「レッザレジリエンス」の手応えと可能性を感じている。
「資源ロスという課題を取り上げたことで家具、生花……さまざまな業界の『もったいない』を掘り起こすことができました。今後、業界の垣根を超えて手を結ぶことで新たなクリエイションが生み出され、課題解決につながっていくと感じています」(森田さん)
「私たちが素材に対してネガティブに捉えている部分を、その素材の個性として楽しんでいただけるようなプロダクトとして提案することで、素材に対する新しい価値観を広めていきたい」(黒住さん)
「アップサイクル、廃材利用が“ひとつの価値”として受け止められる時代です。人類最古のアップサイクル素材である革に目を向けてもらうために、次の世代に真の価値を伝え、最新のネットワークを活用して新しいサプライチェーンを構築することが私たちの使命だと考えています」(平井さん)

異なる業界が手を結び、資源ロスという課題に向き合う「レッザレジリエンス」。これからの展開に期待したい。

レッザレジリエンス
https://www.instagram.com/lezzaresilience/
富田興業
https://www.tomita.co.jp
マスターウォール(MASTERWAL)
https://www.masterwal.jp

photography: Yasuyuki Takagi, editing & text: Ryoko Kuraishi

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