革の端材をアップサイクル! 学び、体感するワークショップ。

鮮やかな赤や黄色からナチュラルカラー、メタリックな光沢をもつものまで、色も厚みも質感も異なるさまざまな革。この革を素材に、貼り絵作品をつくるワークショップが今年2月、無印良品 銀座にて開催された。同じ下絵を基にしていても、出来上がった作品は個性豊か。参加者が革について学び、作品づくりに夢中で取り組んだ、このワークショップの様子をレポートする。

発色のよいものや表面加工が施されたものなど、多彩な革が用意されていた。

革が生まれる背景を学ぶ。

ワークショップ前半では、これから扱う革がどのようにつくられたのかを学ぶ。国内有数の革の産地である兵庫県姫路市から、ふたりの若きタンナーが会場を訪れ、革づくりの工程を参加者に説明してくれた。

姫路市のタンナー、坂本商店の坂本悠さん(左)とイサム製革の中島隆満さん(右)。

「革づくりに使用されている動物の皮の多くは、私たちが食べる食肉の副産物です。もし皮をすべて廃棄すると、その重量は1年に東京スカイツリーの約6倍になるともいわれています。食肉文化が続くかぎりは、天然素材である革を使ったほうが動物の命を余すことなく無駄にせずに生かすことになります。革製品はケアして使えば長持ちしますので、SDGsにも繋がる要素があると思います」。革の材料である原皮について、坂本商店の坂本悠さんはこう語る。坂本商店は日本の伝統技術による「姫路黒桟革」を手がけることでも知られるタンナーだ。

原皮を石灰に漬けて脱毛したあとの状態は“シルクより白い”といわれるほど真っ白であること。“鞣す”ことによって耐久性と柔軟性を備えた革になることなど、初めて知る内容に参加者は熱心に聞き入っていた。

牛一頭あたりの原皮は約5平米ほどで、重量もあるため、日本では背筋に沿って半分に分ける「背割り」といわれる作業を行って革づくりをすることが多いという。その革を、坂本さんと中島さんは広げて参加者に見せてくれた。

「大きい!」と驚く参加者に、「これでも小さいほうなんです」と中島さん。

「向かって右側が頭部で、首の部分に皺があります。この部分が前足です」と、イサム製革の中島隆満さんが革の部位を示しながら説明する。「鞄や靴、小物などの革製品をつくるために革を裁断する際、足や頭の先端部分などがどうしても残ってしまいます。最近では、無駄なく取れるような機械を導入したり、この部分を活用してキーホルダーをつくったりもしますが、やはりロスが出てしまいます。でもロスの部分も、動物の命をいただいたもの。これを有効活用するのが今回のワークショップです」

1枚の革のなかでも、部位によって柔らかさや質感が違うことを、触って確かめる参加者たち。

革と対話しながら、作品をつくる。

参加者たちが今回扱う革素材についてしっかりと理解できたところで、坂本さんと中島さんからバトンを渡されたのは、イラストレーター/クリエイティブディレクターの前川正人さんだ。今回のワークショップのために「LOVE」の文字をモチーフにした下絵を用意してくれた前川さんは、この下絵を描いたボードを配りながら、作品づくりのコツを参加者に伝えた。「自分のセンスと感覚を信じて、迷わず貼ってみてください。迷うとどんどん時間が過ぎていきます(笑)。まず文字と枠を埋めてから、背景に白い革を貼っていきます。あとは自由です」

作品見本を見せながら説明する前川正人さん。

参加者たちは目の前に用意された色とりどりの革から惹かれたものを選び、思い思いに作品づくりを始めた。興味深いことに、スタート当初からそれぞれの個性が発揮されていた。

絞り染めのような模様が特徴的な深いグリーンの革が葉っぱに見えたという女性は、その葉っぱをのせて「O」の文字を果物に見立てた。偶然できた模様を生かした、素敵なアイデア。

「なるべく切れ端の切れ端まで使う」ことを自身のルールと決めたという参加者は、細かな革をいくつも組み合わせ、ちぎり絵のように形をつくっていった。同じ革でも、色の濃淡や風合いが違う。組み合わせることでグラデーションのような表情に。

革と向き合いながら、皆が作品づくりに集中する。

色をミントブルーと黒に絞って制作し、ブルーの革は裏表を組み合わせて、質感の違いを生かした人も。黒い革の小さな端切れはドット模様に活用。

枠と文字を埋めた後は、背景に白い革を貼っていく。この革は、ごく薄く漉いた豚の革だという。靴の内側や手袋などに使用される豚革は、柔らかく滑らか。「漆喰のよう」とある参加者が表現したように、背景に貼ることで奥行きと味わいが生まれる。

手前左が背景に使用した白い革。和紙のようにも見える、繊細な表情。

前川さんが「あと30分です」と残り時間を告げる。時間制限のあるコンテストに臨んでいるかのように、皆が真剣な面持ちだ。

一見シンプルな絵を仕上げるのに時間がかかった理由は、おそらく革の生まれた背景を知り、命からいただいた天然素材であることを理解した参加者たちが、革そのものの形や大きさを生かそうと工夫を重ねていたから。自分の思いどおりの形に革を切るのではなく、ありのままの革の形を生かし、毛羽立った端の部分もそのままデザインに取り入れる。一方で、柔らかく薄い革は、絵柄に沿って柔軟に形を変えてくれる。それぞれ個性の違う革と対話しながら、皆が無心になって取り組んだ。

「大きさが違ったり斜めだったりする、革のラインをそのまま生かしてつくることがとても楽しかったです」

ある参加者の言葉どおり、ワークショップ終了後のテーブルには、革の小さな端切れが驚くほど少なかった。皆が大切に、端の端まで使い切ることを実践した結果といえそうだ。残った革素材も美しいまま、次の参加者へと引き継がれていく。

「革職人さんの革に対する敬意を感じて、家にある革製品への気持ちが明らかに変わりました。私も敬意をもって、革を育てる気持ちで革製品を使っていきたいと思いました」

「革製品を持っているのに、それらがどこからきたのか、これまで意識したことがありませんでした。革というものはたくさんの人の手を介して出来上がる素晴らしい天然素材なのだとあらためて理解できました。さまざまな厚みの革に触れ、その柔らかさや美しさを体感しました」

革製品を大切に、敬意をもって扱うといっそう愛着が湧き、永く使うことは環境にも優しい。そんなサステナブルな循環が生まれるきっかけを、参加者たちは出来上がった作品と一緒に持ち帰ったのかもしれない。

イサム製革
兵庫県姫路市花田町高木80

坂本商店
兵庫県姫路市花田町小川367-1
https://himejikurozan.net/
Instagram:@himejikurozan.tannery

photography: Mirei Sakaki

BACK TO LIST

PAGE TOP