インテリアデザインに生かされる国産レザー。

革製の座面とウッドの組み合わせが美しいダイニングチェア。

家具や照明、テーブルウェアなど、生活のさまざまなシーンを彩るプロダクトを、北海道・東川町にある自社工場を中心に、全国の協力工場で製造している「タイムアンドスタイル(Time & Style)」。1990年にドイツ・ベルリンで創業し、97年には国内外の厳選したデザイナーズプロダクトを扱うインテリアショップ、「タイムアンドスタイルホーム(Time & Style HOME)」を自由が丘にオープン。以来、国内各地やミラノ、アムステルダムに店舗を展開し、素材の美しさを引き出した家具を企画・製造・販売している。

創業以来、タイムアンドスタイルが大切にしてきたのが、日本の職人による手仕事と、長期間メンテナンスしながら使用できる高品質な天然素材だ。家具の張り地に用いるのはレザーやウール、コットンといった天然素材が中心。約10年前からは姫路のタンナーのもとで、オリジナルレザーの開発を行うようになった。素材開発に至った背景を、専務取締役の吉田安志さんに聞いた。

革素材への思いについて語る、専務取締役の吉田安志さん。北海道の自社工場近くで。

「それまでは市場に流通しているレザーを卸問屋から購入していましたが、私たちの考えを製品で表現したかったため、オリジナルの鞣しや仕上げ、カラーについて川善商店に相談したことが始まりでした。それ以来、タンナーの方々から革の鞣しや加工についてアドバイスをいただきながら、独自の世界観を表現できるオリジナルレザーの開発を進めています。小売店が直接、鞣しの現場に赴き、技術者とコミュニケーションを取るというケースは、それまでになかったと聞いています」

タンナーとの取り組みを続けるうちに、鞣しや加工のみならず原皮にも注目するようになり、2023年秋からはついにレザーを使ったラインの一部を、国内産の原皮を鞣した牛革に切り替えた。

「私たちの創業の地であるドイツはもともと革が有名で、ヨーロッパの革文化を身近に感じていましたが、国内産の革についてはほとんど知識がありませんでした」

そんな吉田さんたちに国内産原皮、その中でも北海道産の牛原皮について詳しく教えてくれたのが、姫路のタンナーたちだった。

「姫路のタンナーさんたちによると、北海道の広大な土地で育った牛は、きめ細かな繊維質をもつというのです。私たちは北海道に自社工場を構え、北海道産の木材を使用して家具を製作していますが、実は北海道産の木材も木目の美しさに定評があるのです。これで俄然、北海道産の原皮に興味をもつようになりました。さらに、北海道の牛は本州よりも個体が大きく、大きい面積の皮がとれること、虫が少ない環境で育つため、虫刺されによるピンホールが少ないことも教えていただきました」

北海道産原皮を、姫路のタンナーが鞣した革。仕上げ、加工、カラーともオリジナルにこだわっている。

北海道の知り合いの畜産事業者が北海道北部地区の原皮を一手に引き受けているという偶然まで重なり、吉田さんのなかで北海道産原皮への思いが募った。

「その工場に頼み込んで、屠畜から原皮処理までの工程を見せてもらいました。命あるものが素材となるプロセスを知ることで、より一層、革を使ったものづくりを行うメーカーとしての責任を感じるようになりました。食肉の副産物である革を有効に活用し、長く使い続けられる製品として世の中に送り出すことが、私たちの使命だと考えたのです」

姫路の工場にてレザーの加工を行う様子。

2年余りの開発期間を経て、2021年に北海道産原皮の仕入れをスタート。姫路のタンナーが鞣した革を、国内各地の工場で製品化している。

「世界にも誇れる北海道の原皮が、世界屈指の技術を誇る姫路のタンナーによって鞣されるのですから、よくないわけがありません。過去20〜30年、日本の製造業は安さを追求し、海外から輸入した素材でものづくりを行っていました。これだけ素晴らしい素材が足元にあるのに、です。私たちは『失われた時代』を取り戻すために、いま一度、国産素材を見つめ直そうとしています。そして、こうして手にした素材を、循環型のプロセスで長く使い続けられるクオリティの製品に仕上げていきます。それが、これからの製造業の課題だと感じています」

昨年ミラノにオープンした直営店。天井の高い開放的な空間に、レザーソファなどをシーンごとに展示している。

国内産の革に切り替えたタイムアンドスタイルでは、さらなるチャレンジを予定している。まずは、吉田さんが注目しているエゾ鹿革の採用。利用できる部位は限られてしまうが、北海道固有の天然資源を家具や小物に取り入れることはおもしろいチャレンジになると考えている。さらに、丸革(1頭分の革)を使った取り組みも始まっている。

「日本で流通している革は半裁が中心のため、大型家具には半裁を貼り合わせる必要がありました。ところが数年前、川善商店が大型機械を導入し、本格的に丸革の供給を開始したことで、私たちの代表的なソファの座面を継ぎはぎせずに覆うことができるようになりました。半裁と丸革ではデザインがまったく変わりますから、家具デザインにおいて丸革を使えるのは画期的なことなんです。丸革を使った大型ソファは来年から販売がスタートする予定です」

タイムアンドスタイルらしいレザーソファ。「レザー本来の質感や手触りを残した仕上げなので、使い込むほどに風合いが増していきます」と吉田さん。

このように、素材に関してチャレンジを続けるタイムアンドスタイルのものづくりには、世界中から関心が集まっている。2020年にはイタリアのトップインテリアメーカーである「ボッフィ|デパドヴァ(Boffi | DePadova)」社との提携が始まり、現在では世界60カ国以上のボッフィ|デパドヴァのショールームで「タイムアンドスタイル エディション(Time & Style edition)」の家具コレクションが展示されている。22年にはミラノのブレラ地区にタイムアンドスタイルの直営店がオープン。メイドインジャパンのものづくりを、ヨーロッパから世界に向けて発信している。

「日本の素材の優れた特性を生かしたものづくりを続けることで、ヨーロッパに発信することができます。細かくて丁寧な作りだけでなく、素材も素晴らしいねと評価されるような提案を続けていきます」

タイムアンドスタイル Time & Style
東京都港区南青山5-6-10 5610番館2F
tel: 03-5464-3208
https://www.timeandstyle.com/jp/time-and-style-brand/

photography: Kenichi Katsukawa, editing & text: Ryoko Kuraishi

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