革づくりの高い技術と職人の技に触れる、革きゅん工場見学レポート。
3回目となる革きゅん工場見学企画が2024年11月に開催された。皮から革になるまでの製造現場を、読者たちが見学した。
今回訪れた「モリヨシ」は日本国内における皮革の4大生産地のひとつ、兵庫県たつの市にある老舗タンナー。1957(昭和32)年に創業した同社は、原皮の買い付けから鞣し、染色、仕上げまで手がけており、主にソファなど家具用の革づくりを得意としている。そんなモリヨシの3代目、代表取締役社長に就任したばかりの森脇和成さんが、大きな木製のドラムがズラリと並ぶ工場内を案内してくれた。
「海外・国内から届く塩漬けされた牛皮をこのドラムに入れ、水で戻すところから革づくりはスタートします。2日間かけてゆっくりと丁寧に水で戻していくんです」
水で戻した牛皮は半分に裁断して、パドルと呼ばれる機械に投入し、石灰などを使って脱毛する。毛がなくなった皮は、専門の業者により銀面(表面)と床皮(裏面)の二層に分割される工程を経て、ようやく鞣しの工程へと至り、2〜3日かけて鞣していく。このように、鞣すまでにも複数の工程があり、多くの手間と時間がかかることを知った参加者から、「革製品が高価である理由がわかった」との声があがった。
鞣しの工程が終わった段階でようやく皮が革へと変化。
「革は天然の素材。鞣してはじめて、擦り傷の痕や、身体の使い方の癖による傷みやしわが現れます。それらは個体差があるものの、その状態によってスムースレザーとなるものや、表面に凹凸模様を刻印する型押しレザーにするものなどに分類していくのです」と森脇さん。鞣された革にも一枚一枚違いがあることから、革は動物の命からいただいたものだと、参加者たちはあらためて強く感じた様子だった。
鞣された革は、乾燥しないように少し湿ったまま保存される。参加者たちは鞣された革に触れ、「しっとりしていて、厚みもしっかりありますね」と、そのなめらかな感触を確かめる。保存された革は注文が入り次第、染色や塗装などの工程を経て出荷されていく。
現場を見学後、吊り干し乾燥場へと移動。色とりどりに染められた革がズラリと並び、参加者たちは鞣したての革との違いを実感。
続いて、塗装用の染料を調合する現場と仕上げ塗装の現場を見学。染料の調合は、専門の職人が黒・黄・オレンジの染料を使って、あらゆる色みを出すという。3色の配合であらゆる色を出す作業はまさに職人技だ。色合わせは最も難しい工程のひとつで、職人の目視によって見本と合わせながら仕上げていく。
塗装は、製品になったのち汗や水分が革に染み込まないようにするための大切な工程。特に家具用の革はムラなく均一に塗装を行う必要があるので、モリヨシの技術力の高さが生かされる工程だ。光の具合で誤差が出ないように、専用のボックス内で特定の照明を使ったチェックも行われるという。こうして仕上げの工程を経た革は、主に東京のメーカーへと出荷され、家具やバッグ、財布、ベルトなどへと姿を変えて私たちの手元へ届くのだ。
森脇さんは次のように語り、工場見学を締めくくった。
「皮は食肉の副産物。もし使わずに廃棄してしまうと、大きな環境負荷がかかってしまいます。でもこうして革に加工してものづくりをすれば、長持ちする製品へと生まれ変わり、エコフレンドリーな素材となるのです。革製品は高価だと思われがちですが、長期間愛用すれば短期間で何回も買い替えるより結果的に安くなる。弊社の事務所で使っているソファも20年以上使っているものです。ぜひ若い方にも革製品のよさを知っていただき、好きになってもらえたらうれしいですね」
普段は決して見ることができない生産の現場を目の当たりにした参加者たちからは、革製品に対する印象が変わったと感動の声が相次いだ。大阪府から訪れた男性は、「革がこんなに手間暇かかってつくられているなんて思いもしなかった。革製品好きの方には、ぜひ知ってほしいです」と笑顔で話す。また兵庫県内から訪れた男性は、「まず工程の多さに驚きましたし、薬品を使い分けることで鞣しの仕上がりが変わるなど、とても化学的だと感じました」と語ってくれた。
たくさんの工程を経て出来上がる美しい本革。その本革がさらにメーカーやクリエイターによって革製品となり、持ち主に愛用されることで、それぞれのストーリーが詰まった唯一無二の存在となる。革づくりの現場とタンナーたちの真摯な思いを知ることで、長く愛したいと思えるレザーアイテムとの出合いは、いっそう特別なものになるだろう。
モリヨシ
兵庫県たつの市揖保町栄125
https://www.kawa-ichi.jp/tanner/moriyoshi/index.html
photography: Shin Ebisu, text: Maho Nomura