子どもの思い出を別の形で蘇らせる、ランドセルリメイク。

1965年、東京の下町にある11坪あまりの工房で産声をあげた「土屋鞄製造所」。創業から一貫して手がけているのがランドセルだ。「子どもたちが初めて手にする鞄だからこそ、なるべくよいものを」と、良質な素材選びと熟練した職人たちによる丁寧な縫製、手縫いでの補強を行っており、6年間、ほぼ毎日の使用に耐える丈夫なつくりになっている。

子どもたちにとって小学校6年間の思い出が詰まったランドセル。使い込まれたランドセルはくたっとした風合いになっており、スレや糸のほつれなども見られる。

土屋鞄製造所がランドセルリメイクサービスを開始したのは1990年代前半のこと。「当初は他社製のランドセルのリメイクも請け負っていたようです」と言うのは、リメイクやリペアを専門に行う「CRAFTCRAFTS」部門でランドセル課のリーダーを務める中澤秀一さんだ。
「ランドセルにはかけがえのない思い出が詰まっていますが、そのままの形では使いづらいし、保管するだけというのももったいない。『子ども時代を気軽に振り返られるような別のプロダクトにリメイクできないか』、そんな相談を受けた創業者の土屋國男がランドセルリメイクを始めました。本革は手入れさえ怠らなければ20年、30年と長持ちする素材ですし、うちのランドセルは丈夫なつくりと飽きのこないシンプルなデザイン、長く愛し続けられる美しい発色にこだわって製造しています。手がけた職人たちも、『小学校を卒業した先でも愛用し続けてほしい』という思いを抱いていたようです」

「CRAFTCRAFTS」部門の中澤さん。「リペア、リユース、リメイクを通じて、時を超えたものづくりの魅力をお伝えしていきます」

いまや土屋鞄製造所を代表するサービスのひとつになったランドセルリメイク。現在はミニチュアランドセル、ランドセル型フォトフレーム、ペンケース・キーチャームセット、パスケース、タペストリーの5アイテムのいずれかにリメイクすることが可能で、オプションで卓上カレンダーを付けることもできる。アイテムの内容はその時々のニーズに合わせてアップデートされている。

飾って楽しめるタペストリーも、ランドセルリメイクの人気のアイテム。

「小学生が毎日使うランドセルですから、キズやヘタリがあって当たり前。ときにはらくがきやシールもそのままに、リメイクサービス専用の倉庫に届きます。倉庫に出向いた職人が状態を確認しながら解体し、パーツごとに各仕立て工房へ。使い込んだ風合いを生かして一点ずつ仕立て直しています。ひとつの製品として完成度の高いものをお届けしたいので、パーツや金具もこだわって選んでいます。とくに、サービス開始当初から人気のミニチュアランドセルは、高さ15cmのミニチュアサイズとは思えないほど、本格的な仕様になっているのが特徴。本物と同様、錠前つきでかぶせ(フタ)を開け閉めでき、中にものを収容することもできます」

状態を確認しながらランドセルを丁寧に解体し、リメイク可能なパーツを選定していく。

完成した製品は、使い込まれたランドセルが原形とは思えないほど上品で美しい仕上がりに。各アイテムとも、年代や性別を超えて幅広い層にマッチする普遍的なデザインが採用されており、革の質感を生かすべく個々のランドセルに合わせた色のステッチが施される。ランドセルに用いられていたビスや金具があしらわれているのもポイントだ。リメイクされたペンケースやキーチャームは中学校にあがった本人がそのまま使うケースもあるが、6年間の感謝の気持ちをこめて、ランドセルを購入してくれた祖父母へギフトとして贈る例も多いそう。

そんなリメイクサービスの根底には、土屋鞄製造所が掲げる「時を超えて愛されるものづくり」というモットーがある。
「私たちのものづくりの特徴は、製品の企画・開発から素材の調達、製造、販売、アフターサポートまでをワンストップで行っていること。すべてを自分たちで担っているからこそ、妥協のないものづくりを貫けると同時に、ものづくりの責任を果たすことができます。店舗で集めたお客さまからのフィードバックや、アフターサポートで得られる情報を製品の開発に反映することで、使い勝手や耐久性、製品の完成度をさらに高めるというポジティブな循環を実現しています」

「ランドセルリメイク」では職人がひとつずつ手作業で仕上げている。納期短縮を目指し、リメイク専門のチームも立ち上がった。

こうした循環の精度をさらに高めるため、2022年4月に立ち上がったのが「CRAFTCRAFTS」だ。ケアサポート、リペア、リメイク、リユースという4つの事業を統括するこのチームが発信するのは、「メーカーと消費者が手を取り合い、職人が仕上げた革製品を一緒に育てていこう」という価値観だ。
「お手入れのコツをお伝えし、長く愛用していただく。壊れたら、あるいは使用するシーンが変わったら、修理やリメイクで対応する。残念ながら使われなくなった製品は、私たちが責任を持って引き取り、きれいに直して新たな使い手へと引き継ぐ。『時を超えて愛し続ける』というものとの向き合い方を、多くの方に知っていただきたいと思っています」

子どもたちが毎日使っていたランドセルをきっかけに、社会や環境に配慮した消費のありかたについて親子で考えてみる。そんな機会を設けてみるのもよさそうだ。

50人の職人が150以上のパーツを使い、300を超える工程でひとつのランドセルを仕上げる「土屋鞄製造所」。金具の交換、糸のほつれといった修理を6年間無償で受け付けている。

土屋鞄製造所
東京都足立区西新井7-15-5
tel: 0120-907-647
土屋鞄のランドセル https://tsuchiya-randoseru.jp/
土屋鞄製造所(大人向け鞄専門店)https://tsuchiya-kaban.jp

photography: Midori Yamashita, editing & text: Ryoko Kuraishi

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